全五章からなるその本の最終ページをぱらりと捲り、白紙のページが物語の終わりを告げると、私の心はとても温かい気持ちに包まれていた。

その本をそっと閉じ、膝の上に置く。
そして視線を落とし、タイトルの書かれた表紙を眺めた。

ついさっきまで頭の中で繰り広げられていた本の世界にまだ浸っているせいか、意識がふわふわとしている。

静かな図書館で出会ったふたり。
その描写がなんだか今私がいる場所と被って、ひたすら夢中になっていた。

恋愛にはあまり興味がないと思っていたけど、そんな私でもふたりの関係には少し憧れてしまう。

とくに主人公が図書館から彼女を連れ出す場面は……。

不思議なくらいに、心は本の世界に引き込まれていた。
この本の世界と現実の世界の区別が難しくなるくらいに。

同時に登場するふたりのことをとても身近に感じた。
まるで私の知り合いかのように錯覚する。

何故こんなにも、愛しい気持ちになるんだろう。

私はこの作家が書いた他の本を探してみようと思い立つ。

ほかに著書があるならきっとそれも夢中になれるはずだ。

立ち上がろうとして顔を上げたとき、私は思わず息を呑んだ。

誰もいないと思っていた本棚の前に人が立っていて、しかもこちらをじっと見つめていたからだ。