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『僕と君は、本の世界で恋をする』 篠崎優人
彼女とは図書館で出会った。
以前自分がよく座っていた図書館の奥の席。そこで彼女は真剣な表情で本を読んでいた。
僕は彼女に見惚れていた。本を持つ手に窓からの淡い日差しが当たり、ほっそりとした白い右指が本のページを捲る。長い髪がはらりと頬に落ちると、本を抑えていた左指が髪を耳へさらりとかける。その仕草をじっと見つめてしまう。
とてもまじめな顔をしていたかと思うと、今度は嬉しそうに口元をゆるめて、そうして悲しそうに目を細める。
ころころと変わる彼女の表情に、僕は目が離せなかった。彼女の手元にある本を見る。だけど彼女の手に収まっているその本の題名までは見えなかった。
「あの……。 その本、面白かったですか?」
「……え?」
彼女が本を読み終わったタイミングを見計らって、僕は声をかけた。
「僕もその本を読みたいと思っていたんだ。そしたら君がその本を読んでいるのを見かけたから感想が聞きたくて――」
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