図書館の白いすりガラスはやわらかな日差しを手元に落としてくれる。

そのソファ近くの本棚には読者が少ない専門書が収納されているから、自分以外の来館者がこのソファまで近づいてくることは滅多にない。

おそらく菜穂も気づかないくらい図書館の奥の、奥の隅。

誰かに干渉されることなく読書に集中でき、本の世界に浸るにはとても最適な席。私が唯一落ち着ける居場所だった。


私は手にしていた本の表紙をもう一度見る。

本のタイトルは『僕は君と、本の世界で恋をした』。

そして題名の下には【篠崎優人<Shinozaki Manato>】と著者の名前が書かれていた。

タイトルだけではなく、著者の名前も聞き覚えがない。


ページをめくると、プロローグや挨拶文はなく、すぐに物語が始まる仕様。

読み始めると、すぐに頭の中で本の世界の景色が脳裏を鮮やかに駆け巡った。

最初の舞台――図書館を思い浮かべた瞬間、私はあっという間にその本の世界へと引き込まれていた。