翌朝は遅刻もせずに始業の十分前には席に着いていた。

泉くんはまだ来ていない。

昨日は泉くんが用事があると言ってカフェの前で別れた。

一緒に帰れなかったのは残念だけど、何か思い悩んでたみたいだし、それなら今日、会ったらせめて明るい声でおはようくらい言おうと決めた。

ガラガラ、ドアが開と「おはよー」といつもと変わらない様子で泉くんが来た。

泉くんが席に着くまで私の前を通る。その時がチャンス。

「おはよ!」

言ったのは私じゃくて、山下さんだった。

「亮、今日さカラオケ行かない?」

「いいよ。別にどこでも」

「やったー!」

その会話が気になって、ちらりと泉くんの方を見ると山下さんと目が合った。

山下さんはにこりと笑って、泉くんに腕を絡めた。

「何歌おうかなー」

「何でもいいんじゃない?」

二人は楽しそうに会話している。

山下さんの腕は泉くんに絡みついたままだ。

かなりの密着度。恋人同士の距離感ーー。

それよりも何よりも。

(腕、振り払わないんだ)

嫌がる素振りもない。泉くんも、満更でもないのかな。

「……」

「やっぱりあの二人、付き合ってんのかね?」

後ろの席からサナが私に声をかけた。

「どうだろ……」

「いずれにせよ、このままじゃヤバいよまひる!」
「うーん……」

「好きなら当たって砕けろって」

砕けちゃうのか。

励ましてるのかそうじゃないんだか分からないけど。でも今はサナの陽気さに救われた。

「ありがと。少し話せるようになったから、今度聞いてみようかな、付き合ってる人いるのか」

「えっ?!」
あんぐりんとサナが口を開けた。

「い、いつの間に君たちそこまで進展しちゃってんの?聞いてない!」

あ、昨日の事はまだ自分でも整理出来てなくて言ってないんだった。

でも今はまだ自分の心の中だけに閉まって置きたい気分だった。

誰かに話すと何だか嘘になってしまう気がして。

「日曜日、まひるの家で事情聴取するからね」

とニヤリと笑うサナ。

これは逃れられないな。