「志芳ちゃん。今日は何読んでるの?」と私。
「フョードル・ドストエフスキーの“罪と罰”よ。正当化された殺人と貧困、人間回復への強烈な希望を唱えた近代を代表する予言書的な傑作小説だけれど……希望は読んだことあるかしら?」
「えっと……ドス? フスキーさん? 罪と罰ってタイトルなら知ってるけど、読んだことはないかな…」
「でしょうね。知ってた」
志芳ちゃんは鼻で笑ってから本を閉じた。
顔も頭もいいんだけど、
志芳ちゃんもかなり変人だ。
「あっ、いたいた。志芳。
なんで屋上に来てくれなかったんだよ?」