本当は3番なんて嫌だ。

1番が、いや、一人に絞ってほしい。

でもそれでも会えなくなるよりましだから・・・

俺って女々しい・・・

「桜木さんは・・何人も彼女を作るのか・・・」

猛「え??何??」

小さい声でわからなかった。

「いえ・・・何でもないです・・・桜木さんは、芸能人ですもんね・・・」

猛「え??」

「モテるでしょうし・・・彼女が何人いてもおかしくないですよね。」

猛「え??彼女なんていないけど・・・」

「え??何人もいるんじゃないんですか??」

猛「えっ!?いないよ!!心愛ちゃんが好きだって言ってるじゃん!!」

「えぇ??じゃあ何で順番なんて・・・」

猛「だって心愛ちゃん・・・二人も彼氏いるんでしょ??」

「えぇ!?いないですよ!!私はフリーです!!」

猛「だって!!大事な人って・・・」

「大事な人??・・・・あぁ、電話の相手ですか??」

猛「うん・・・」

「あれは・・・」

ピリリリリ

「またかかってきた・・・・ちょっとすいません。もしもし??」

[何でまだ帰ってきてねーんだよ!!!お前もう許さねーぞ!!]

「帰るなんて行ってないし。」

[はぁ!?]

「凌ちゃん・・・今日中には絶対帰る。お説教もちゃんと聞く。だから、今だけ許して・・・お願い・・」

[・・・一緒に寝てくれたら許してやる。]

「えぇー・・・凌ちゃんが入ると狭いな・・・腕枕してくれる??」

[うん。]

「ん・・・わかった。帰るとき連絡する。」

[・・・・気を付けてな。]

「・・・・・・すいません。もうかかってきませんから」

猛「い・・一緒に寝るの??」

「寝ますよ??大事なお兄ちゃんみたいな・・・幼馴染みなんです。二人とも・・・」

猛「幼馴染み??」

「はい・・・7歳上なんですけどね、産まれた時からっていうか、オムツも変えてもらってたらしいんですけど、お兄ちゃんみたいなもんなんです。」

猛「お兄ちゃん・・・」

「・・・・ずっと・・・両親が亡くなってからも、私を支えてくれてた・・・ツラい時も、どんな時だって凌兄と瞬兄は味方でいてくれました・・・・・だから大事な人なんですよ??」

猛「・・・」

早とちりした・・

誤爆だ・・・

はずかしっ!!

「・・・桜木さんは・・・私の中で1番です。」

猛「・・・1番・・・1番!?」

「私も貴方と同じ気持ちです・・・・でも、ごめんなさい。貴方の気持ちを受け入れることは出来ないんです。」

とても、悲しい顔をしている

猛「・・・どうして・・・??受け入れられないのは・・・同じ気持ちって言えないんじゃない??そんな期待させないで振ってくれていいんだよ??」

変な優しさは欲しくない。

「・・・・・以前・・・・・ある歌手の人と付き合ってました・・・本当に大切で・・・幸せで・・・・・彼との未来を信じてた・・・でも・・・」

とてもつらそうで、悲しそうで、思わず抱き締めてしまった。

猛「・・・続けて??」

「・・・彼は・・・・・去っていった・・・彼が悪いんじゃない、私がいけなかったんですけど・・・・・・まだ前に進むことができません・・・彼との約束がある限り・・・私はそれを守らなきゃいけない。自分勝手なことを言ってるのはわかってます・・・不誠実なのもわかってます・・・・だけど・・・何も言わず暫くこのままの関係でいさせてもらえませんか??もちろん・・・私に対しての気持ちが離れたなら、それでも構いません・・・彼との約束が果たされたら・・・私からも告白させて下さい・・・」

体が少し震えている。

猛「約束って・・??」

「・・・・・すいません・・・まだ誰にも話したことなくて・・・きっと心配させてしまうから・・・」

猛「・・・ん・・・無理に聞くことはしない。俺は・・・待つよ。いつまでも待つ・・・だから俺のところに来てね・・・心愛・・・」

「!!・・・うん・・・」

こんなに切ない恋もあるんだ。

好きだからって繋がれるわけじゃないんだ。

でも、同じ気持ちなんだな・・・

心が熱くなった。

猛「まだ抱き締めてていい??」

「うん・・・いいよ・・・」

いい匂い・・・

猛「・・・好きだよ・・・好きだから・・・幼馴染みでも一緒には寝ないで??」

さすがにそれは嫌だ。

「・・ん・・」

猛「・・・・そういえばさ、さっき電話で発作がどうのって話してたでしょ??何の発作??」

「あぁ、喘息。私喘息あってね、体調悪いと出やすくて・・・」

猛「煙草吸っちゃ駄目じゃん!!!!」

害の害。

危ない、俺も知らなかったら目の前で吸うところだった。

「んー・・・そうだね。」

猛「やめなよ。喘息って咳止まらなくなるんだろ??苦しいし・・・」

「・・・大丈夫。ちゃんとわかってるから・・・心配してくれてありがと。」

伏し目がちだったのが、下から除き混むようにして、顔がかなり近い距離にあった。

猛「・・・・・・・・・」

キスしたい・・・

俺は下心しかないのかよ。

「・・・・・この先ね??」

猛「ん??」

「・・・・・この先・・・もしも、私のこと嫌いになったら・・・」

猛「ならないよ。」

「・・・」

目があっていたのに、下を向いて首を振り

「なるよ。絶対なんて・・・ないから。その時は、ちゃんと振ってね。」

悲しい眼差しで俺を見て、俺は思わず

チュッ

「!!!」

柔らかい・・・

甘い香り・・・

きっと、彼女は人を信じるのが怖いんだろう。

信じて傷付くのが嫌だから。

でも俺を前の男と一緒にされては困る。

猛「俺は・・・君を待つ。でもね、待つのが限界になったら・・・その昔の男との約束なんて破らせてでも・・・俺のものになってもらうよ??俺の愛は・・・・重いんだよ??」

信じられないなら、信じさせてやろう。

昔の男がどんなやつだったか知らないけど、どんな約束をしたんだ。

それに縛られて前に進めないなんて・・・

心に渦巻くモヤモヤは、初めて経験する。

これが嫉妬なんだな・・・

そんな男のこと、忘れさせてやるからな。

猛「こうやって抱き締めたり、手を繋いだり・・・・これからはしたい・・駄目??」

温もりを感じたい。

同じ気持ちだと知って、少し欲張りになってるのかな・・・

「クスクス・・・キスしたのに・・・」

確かにっ・・・

付き合ってもないのに・・・

「・・・嬉しかったから・・・そんな絶望的な顔しないで??」

猛「ありがと・・・でも、次にキスするのは・・・・付き合ってからね。中途半端はよくないからさ・・・でもスキンシップだけ許して??」

「ん・・・わかったよ。」

優しい気持ち。

こんなに穏やかな気持ちになったのは、初めてだ。



それから、何もなかったかのように、そのまま映画を見て過ごした。

少し違うのは、ずっと手を繋いでいたことだろうか。


-------

猛「車で送るよ。」

「ううん、大丈夫。誰かに見られたら大変だし・・・」

猛「・・・ごめんね・・・」

初めて自分の仕事を恨んだ。

無闇に一緒に外にも出られない。

「ううん、気にしないで??・・・猛さん・・・」

名前!!!

猛「まっ!!も!!もっかい!!」

「た・・・猛さん・・・」

プシューっと音がつきそうなくらい赤くなっている。

可愛い・・・

猛「ね・・・・抱き締めたい・・・・駄目??」

「き・・聞かないで??」

ギュッ

猛「ハァー・・・・可愛い・・・」

早く俺のところに来いよ。

そしたら、これでもかってくらい甘やかして、昔のことなんてなかったことにしてやる。
あの映画鑑賞から1ヶ月。

彼女はいつも通り、本当に忙しい生活を送っていた。

でも時間があれば昼でも夜でも一緒に食事をした。

出会いから3ヶ月で、いろいろわかったことがあった。

彼女は、あの若さで役職につき、部下がたくさんいるらしい。

それと仕事の時だけ、喫煙をしてるらしい。

意外だったんだけど、ストレスが半端ないからどうにもならないんだって。

女性が吸ってても偏見はないけど、1つだけ気になるとしたら、喘息があるのに吸ってるらしい。

体の為にやめなさいと言ったけど、どうも彼女は自分のことを疎かにする傾向があるらしく、言うことを聞かない。

食事も最低限、睡眠も下手をしたら3徹とかしちゃう。

本当放っておけない。


でも、付き合ってない。


え??

告白ならしましたよ。

でも、保留なんです。

何でって・・・前付き合ってた奴とどうしても果たさなきゃいけない約束があって、それが済むまでこのままでいたいって。

気持ちは一緒らしいけど。

あ??

こっちが知りたい、何の約束なのか。

敗北感半端ないわ。

しかもその元彼、俺と同じで歌手なんだって。

名前は聞かなかった。

あと、詳しくはわからないけど、親戚とはあまりうまくいっていないようだった。

頼れる人がいないみたいだし、心配だから毎日電話とLINEをしている。

え??
ストーカーみたいだって??

そんなんじゃないから。

同じ気持ちだって言ってんだろ。

彼女はちゃんと毎回出てくれるんだよ。

仕事中とかだと、ちょうどいいから休憩しますって言って話してくれるし・・・



俊「・・なるほどなー。お前それただ単に振りにくくて保留にされてるだけなんじゃねーのかよ。」

幸「ほんとそうだよな・・・そいやさ、写メないの??顔見たことないし。」

猛「駄目。」

幸「何で??」

猛「可愛いから。お前らでも、譲れないから駄目。どうでもいい女ならいくらでもやるし、好きにしたら良いけど、彼女だけは絶対駄目だから・・・。」

グループが解散するのは、だいたい金か女って相場が決まっている。

そんなくだらないことで大事な奴らと決別なんてごめんだ。

俊「お前本当馬鹿だな。」

猛「あぁ!?」

幸「だよねー・・・」

猛「ちょっと幸ちゃんまで・・・」

俊「お前が・・・本気なんだってくらい俺らわかってるよ。」

猛「え??」

俊「あんな女好きで、毎晩違う女抱いてたやつが、心愛ちゃんだっけ??その子に出逢ってから女遊びもやめて、会えるかもわからないのに時間作って・・・喜んだり悲しんだり忙しくしてんのによ。」

幸「そうそう、そんな親友の大事な子を、横から奪ってくわけねーだろーが。むしろ頑張れって応援してるし、少しもどかしいくらいだよ。ただ、どんな子かなって気になっただけだよ。」

猛「俊樹・・・幸ちゃん・・・」

俊「あとお前が心配なだけ。お前女運悪いからな。」

幸「ほんと・・・妊娠したって嘘つかれて結婚しちゃうんだもんな。」

猛「やめろよ。まじであれは人生の汚点だから。」

ギャーギャー騒いでいるとノックが聞こえた。

谷「失礼します。」

猛「谷中。」

谷中徹

THREEDAYSの敏腕チーフマネージャー

谷「猛さん、出ないと心愛ちゃんとの約束の時間に間に合いませんよ。」

猛「えっ!!ほんとだ・・・わりーけど、これから飯食いに行くから。」

俊「ねぇ、谷中さー、猛の愛しの彼女に会ったことあるの??」

谷「ありますよ。」

幸「珍しいね、谷中が猛の女に何も言わないなんて。」

俊「ほんと・・・ちょっと前だったか・・・モデルの女だっけ??その時別れさそうと必死だったじゃん。」

谷「あれは、女に問題があったからです。猛さんの後ろ楯が欲しいだけの女でしたから・・・心愛ちゃんは・・・そこらの女とは違いますよ。」

俊「ちょっと本当珍しいじゃん。俺その子に会いたいんだけど。」

猛「はっ!?」

幸「俺も俺も!!一緒に飯行かせてよ。」

猛「いっ嫌だよ!!お前らなんか急に来たら心愛が嫌がるだろ!!」

俊「心愛だってー。いつ呼び捨てになったんだよ??本当はもう付き合ってるんじゃないの??」

猛「付き合ってねーよ!!」

谷「猛さん良いんじゃないですか??他に人が来たからって嫌がるような子じゃありませんよ。」

「「だって!!」」

猛「・・・ハァー・・・ちょっと待てよ??・・・・・・」

[もしもし??]

猛「心愛??俺だけど・・・」

[うん、どうしたの??]

猛「実はさ・・・メンバーの二人が・・・心愛に会わせてくれって言ってて・・・飯一緒に行きたいらしいんだけど。」

[そうなんだ、大丈夫だよ。皆で行こうよ。]

猛「良いんだ・・・」

[え??あっ、3人なら、谷中さんもご一緒にどうかな??大勢のが楽しいし。]

猛「・・・谷中、心愛がどうせならお前も一緒に飯どうだって??」

谷「変わってください。」

猛「ごめん、谷中が変わってって言ってるからちょっと待ってな。」



谷「お電話変わりました。谷中です。」

[谷中さん、お疲れ様です。]

谷「お疲れ様です。」

[ふふ、敬語やめて下さいって言ったのに戻ってますよ??]

谷「・・癖だから・・・なかなか難しいよ。」

[そうですかねー・・・あっ、そうそう、谷中さんもお時間あるならご一緒にいかがですか??]

谷「ありがとう。でも、お邪魔じゃないかな??」

[そんなわけないじゃないですかー。]


彼女は、変わっている。


彼女の存在を知ったのは、2ヶ月前だった。

俺がチーフマネージャーを勤める"THREEDAYS"は3人組で、デビューから15年、益々人気をものとし、忙しい日々を送っていた。

しかし、私生活はというと・・・

THREEDAYSというブランドを我が物にしようと、女が群がる群がる。

3人はそれをちゃんとわかっていて、一夜限りの女が日替わりでいた。

本気になれない、信用できない、そう思っているようだった。

しかし1か月前、猛さんの様子が少し変わったことに気付いた。

女遊びをしている感じもなければ、頻繁に誰かと連絡をとり、コソコソと出掛けて行く。

周りのスタッフに聞いてみると、お気に入りの女がいるという事実を知った。

俊樹さんと幸也さんはまだ良いのだが、猛さんは何故だが女運が最強に悪い。

以前、妊娠したと嘘をついた女と、俺に何の相談もなしに結婚してしまったことがあった。

結局俺が嘘を突き止め、1日で離婚。

優しく包容力もあるのだが、そういう変な女ばっかり寄ってくる。

女の処理は猛さんが一番手がかかるのだ。


猛さんが仮に本気だとして、もし相手がとんでもない相手だったら、傷付くのは猛さんだ。


これは相手に会わなきゃならない。


思い立ったら吉日。


すぐさま行動にうつし、相手を調べた。

普通の一般人で情報は少なかったが、芸能人、特に歌手には免疫があって、裏方の仕事をしているようだ。

会社を張り込み、彼女が出てくるのをひたすら待った。

午前3時

何時間も待ち、もしやいないのではと思ったが、彼女は中から出てきた。

作業着を着ていたが、遠目からもわかる。

かなり可愛い。

可愛いけど中身はわからないからな。

谷「すみません。結城心愛さんですか??」

突然声をかけたにも関わらず、俺が来るのをわかっていたのか

「・・・桜木さんの・・・マネージャーさんですか??」

そう言った。



「ここで話すと誰かに聞かれますから、移動しましょうか。朝までやってるバーがあるので、そこに行きましょう。」

俺がマネージャーだと確定しているようで、そこから無言で歩き始めた。

バーに着くと、個室に案内された。

谷「申し遅れました、私THREEDAYSチーフマネージャーの谷中と申します・・・私が来るのをわかっていたようですね??」

「ご丁寧にありがとうございます・・・そろそろだろうなと思ってましたから・・・ボトル出して下さい。」

「かしこまりました。」

谷「それは何故ですか??」

「・・・・前にも同じことがありましたから・・・」

谷「なるほど・・・芸能人と付き合うのは初めてではないのですね??」

「えぇ・・・まぁ・・・でも、桜木さんとはお付き合いしてませんよ??」

付き合ってない??

谷「・・・またまた・・・」

手の早い猛さんが何もしてないわけ・・・

あぁ、なるほど。

谷「なるほど、体だけの関係ということでしょうか??」

「結城様お待たせ致しました。」

「ありがとうございます。適当にやるので、あとは大丈夫です。何か欲しいとき呼びますね??」

「かしこまりました。」

「あ、ウイスキー飲めます??」

谷「えぇ。」

「割ります??水とソーダありますけど。」

谷「ソーダで。」

「ソーダですね・・・・・・どうぞ。」

谷「手慣れてますね。」

「えぇ、ここには一人でしか来ませんけど、接待とかよくありますからね。」

そう言いながら、自分の分はストレートで用意していた。

谷「・・・ストレートですか・・・」

「・・・仕事で・・・下がいろいろやらかしちゃって、後処理大変で・・・飲まなきゃやってられないです・・・そうだ、質問に答えなきゃいけませんね・・私達・・・」

ピリリリリ

谷「どうぞ出てください。」

「・・・桜木さんですよ??」

谷「こんな夜中に??」

「仕事が終わって帰るところだって、社を出たときメールしましたから・・・もしもし??」

[心愛??]

「お疲れ様です。寝てたんじゃない??」

[ううん、作詞の締切近いから考えてた・・・帰り道??]

「あぁー・・・ううん、少しバーで飲んでて・・・」

[・・・一人で??]

「一人じゃない。」

[誰??]

「えっと・・・」

[・・・男じゃないよね??こんな時間に男と飲んでたら俺乗り込むけど・・・]

「んー・・・男性は男性だけど・・・ちょっと違うっていうか・・・」

[何それ??お客さん??]

「ううん・・・今さっき初めて会ったけど・・・」

[はぁ!?ナンパ!?]

「いやいやナンパじゃなくて・・・」

チラチラと俺の顔を見ている。

なるほど、誰といるのか聞かれているのか・・・

谷「貸してください・・・谷中です。」

[!!・・・お前・・・何してんだよ!!何で心愛と一緒にいるんだよ!!]

谷「マネージャーとして・・・彼女がどういう人物なのか調べる必要があります。最近の貴方はコソコソと出かけていますからね、おかしいと思いまして調べました。」

[はっ・・・そんなもん俺の自由だろうが!!]

谷「自由??貴方は背負っているものは、一般人とは違います。何がスキャンダルに繋がるかわかりません。貴方だけの問題で済むならどれだけ遊んでいただいても構いませんが、バント活動に支障が出るようでは困ります。」

[・・・俺は遊びで彼女と会ってるわけじゃ・・]

谷「尚のことです。彼女から付き合ってないと聞きましたが、体だけの関係なのですか??」

[かっ!!おま・・お前それ彼女にも聞いたんじゃ・・・]

谷「聞きましたよ。質問に答えてもらおうとしたところ、貴方から電話がかかってきたんです。」

[バッカヤロー!!!してねーよ!!]

谷「・・・・は??」

[この際だから言うけど、確かに両想いなんだけど、事情があって付き合ってはないんだよ・・・彼女とは普通に飯行ったり、家で映画見てるだけなんだ・・・頼むからやめてくれよそういうの・・・]

なんと・・・

猛さんは意外とヘタレ??

「・・・すいませーん、新しいボトル下さい。」

谷「!!えっ、もう飲んだんですか??」

半分くらい入っていたはずだが・・・

「え??はい。今日は本当飲まないとやってられないぐらい凄いストレスで・・・。」

[おい谷中、彼女飲んでるのか??]

谷「だいぶ・・・さっきからウイスキーをストレートで水のように飲んでます。」

[・・・彼女、持病があるんだ。その辺でやめさせてくれ。]

谷「持病??」

[あぁ、なんていうか・・・理由はわからないんだけど、自分自身を疎かにしている部分がある。まるで、自分を壊そうとしているように見える。放っておけないんだよ。彼女は俺が守りたい・・・お前がもし反対するならそれでもいい。でも・・・彼女は今までの女とは絶対違う。それはお前も感じるはずだから・・・]

----------


本当にそうだった。


今までの女と来たら、マネージャーは雑用か何かだと思ってるのか、コーヒー買ってこいだの、邪魔だの言われて腹立つことだらけだったが、彼女は会えば会うほど良いところが出てくる。

最初に会ってから、猛さんがコソコソ出掛けることはなくなり、俺が送迎をするようになった。

その度に彼女は

「お疲れ様です。これ、よかったら飲んでください。」

そう言って、お茶やコーヒーを渡してくれる。

「谷中さん、少し隈がありますね・・・そうだ、これ効くんですよ。」

そう言ってホットアイマスクをくれたり・・

気遣い、優しさに溢れていた。

でも、自分に対しては本当に無頓着で、猛さんが言っていたように、放っておけない感じがした。

そこに恋愛感情はないが、妹のような・・・

そんな感覚だ。

[谷中さん??大丈夫ですか??]

谷「あっ・・ごめんごめん、大丈夫。じゃあお邪魔させてもらうね。場所とか決まってるの??心愛ちゃんも迎えに行こうか??」

[いえどこかはまだ、猛さんに聞いてみて下さい。私は直接行くので大丈夫です。]

谷「ちょっと待ってね、猛さん、どこ行くか決めているんですか??」

猛「んー、そうだなー。今日は中華な気分だけど。」

谷「中華??」

[中華良いですね。そうしましょう。]

谷「心愛ちゃんが中華良いですねって言ってますよ。」

猛「じゃあ決まり。お前らも中華でいいよな??」

「「オッケー」」

谷「中華ならあの個室があるところが良いですね。予約しておきます。」

猛「頼むな。」

谷「心愛ちゃん、お店決まったけど少し駅から離れてるし迎えに行くよ。」

[いえ、大丈夫ですから。どこのお店ですか??]


彼女は、いつも必ず迎えを断る。

送ることも断る。

もちろん、いろいろ警戒した方が良いのだが、彼女はそういう意味で断っているのじゃない。

自分なんかの為に動かなくて良い、そうポツリと呟いたことがあった。

甘えるのが苦手なのかなんなのかはわからないが、少し・・・少しだけ寂しい気持ちになる。

[了解しました。少しだけ遅れるかもしれませんので、先にお店に入っていて下さいね。]

谷「伝えておくよ。」

[お願いします。それでは失礼します。]

谷「後でね・・・・・・・はい、スマホ・・・何でしょうか??」

振り向くと、俊樹さんと幸也さんが自分を見てニヤニヤしていた。

俊「何、お前いつもに比べて対応が随分柔らかいじゃん。」

幸「本当、俺らの女になんてニコリともしないのに。」

谷「貴女方が本気でその女性とお付き合いされるつもりならそれなりの対応をとりますが、一夜の女に愛想を振り撒くほど私は女好きではありません。」

俊「お前本当厳しいわ。」

この業界に入り嫌なほど見てきた。

醜い女の戦いや、陰湿なイジメ。

女なんてものはろくなものじゃない。

未だにそう思って自分自身も独身を貫いている。

谷「さぁ行きますよ。」


そんな女ばかり見てきたからこそ、心愛ちゃんの存在が澄んで見えるのだ。