佐伯 真優 (さえき まひろ)、17歳。




私が部活もバイトもしていないのに放課後一目散に教室を飛び出すのは、

あの人が学校近くの公園で待っているから。


「真優、今日も彼氏んとこ？」

「あ、うん、待たせてるから行くね」


この間オープンしたカフェ行こうと思ったのに。

なんて残念そうな美希の“お幸せに”なんて呑気な声が、胸にちくりと刺さった。



階段を駆け下りて、靴箱から放り出したローファーを雑に履いて。


昇降口を出たら、鞄を両手で抱え込んで猛ダッシュ。


前髪が崩れるとかそんなことは考えていられない。


一秒でも早く、行かなきゃ。


早く、早く、はやく、




次第に焦りでいっぱいになっていた私のぐちゃぐちゃの思考を、思いっきり何かに衝突したことで現実へと連れ戻した。


勢いよく尻もちをついた衝撃で鞄が数メートル先へと飛んだ。



不思議と痛みはあまり感じなかったものの、開けっ放しだった鞄の中身がバラバラと散乱してしまった。



「…あ」