「カーライル子爵、謝る必要はありませんよ」

「「ヴェネディクト!?」」

突然の、驚きの登場にグレースの声とカーライル子爵の声が揃ってしまった。その事に不機嫌な様子を見せてブツブツ言いながら、ヴェネディクトがゆっくりと東屋までやってくる。

「どうしたの?だって、レディング伯爵に呼ばれたって子爵が……」

「行ってみたら伯爵お一人だったからね。いつもビジネスの話の時は同席するカーライル子爵がいないのが不思議でちょっと考えたのさ。この間のお茶会でグレースに随分と興味を持たれていたみたいですから。ねぇ?」

最後のそれは挑戦的な視線と一緒にカーライル子爵に向けられた。

「グレースに謝る必要はありませんよ。謝る以前に、貴方は随分と思い違いをしていますからね。お話にすらなりません。それより、黙って聞いていたら、ちょっとご自分に都合が良すぎる話じゃありませんか?」

「都合が良すぎるとは心外だな。私は……」

「ビジネスなら僕も何も言いません。正確な情報を掴んでいないのも、それを掴む努力を怠ったのも、自業自得ですからね。でも今は違うでしょう?うら若きレディを騙すようにして提案を受け入れさせるのは詐欺に等しい」