最後に小さく呟いてた言葉はテーブルの向こうには届かなかったらしい。

首をかしげるカーライル子爵に無理に微笑んで、グレースは今度はきちんと届く声を出す。

「つまり、私がヴェネディクトではなく貴方と結婚すれば全てが良い結果になる、と言う事でしょうか?」

「ええ。貴女ならきっと理解してくれると思ってましたよ、グレース。貴女の決断でみんなが最善の結末を手に入れられるんです」

「最善、ですか?」

「そうです。ヴェネディクトは裕福な女相続人と結婚して将来の爵位を約束される。イーディスは優しく美しい夫を、レディング伯爵は望ましい婿を迎える。そして僕は理性的な妻を、貴女は望む職と安心できる家を」

「ーーー本当。随分と合理的ですね」

正論だとは思うのに、頷くべきだと思うのに、グレースの胸の中は納得出来なかった。だってこの結論は誰かが誰かを想う心を一つも考えていない。
その想いが顔にでたのだろうか。カーライル子爵は声の調子を随分と柔らかくした。甘さの滲むその口調はさっきまでのビジネスライクな話し方とは随分違う。

「ああ、失礼。女性を説得するのにはロマンチックが足りなさ過ぎたかな?では言い換えましょう。貴女には王子様が迎えに来て幸せな未来が与えられるんです」