今日から中学2年生として、新しい生活が始まる。


新しいクラスメイトに、新しい教室。それに、新しい担任。



家で凄く気を遣うせいで、学校では面倒くさくて一人でいる事が多かったからか、誰とも話すこと無くHRが始まった。


「今日からこのクラスの担任になりました、岸です。みんなで最高の1年にしましょう!」


先生の第一印象は、元気で馴れ馴れしい人。自分のクラスの生徒は、下の名前で呼ぶし、話す時もいちいち距離が近い。1番苦手なタイプだった。


特に嫌いだったのは、授業の方式だ。
理科を担当している岸先生は、生徒達に、毎回、グループワークをさせた。
極力、人と関わりたくなかったのに、やらなければ成績が下がってしまい、また、両親に…。
そう考えると、先生の授業は苦痛だった。



少しずつ、クラス内にグループができ始めた5月中旬。
どういうわけか、担任に突然呼び出された。

放課後になり、呼び出された理由もわからないまま、私は理科準備室の前に立っていた。


コンコン

「失礼します」


ドアを開けると同時に、視界が大量のプリントで埋め尽くされた。


「ごめんごめん!ドア閉めて」


私は急いでドアを閉め、散らばったプリントをかき集めた。それらを岸先生に差し出しながら言った。


「呼び出された理由はなんですか?私、何かしましたか?」


すると、岸先生はニコニコしながら聞き返してきた。



「学校は楽しい?」
「別に…普通です」
「そっか〜」


岸先生の、なんとも言えない微妙な表情に、何となく察しがついた。


「私に友達なんて、必要ありませんから」


そう言い切ると、先生は一瞬驚いた顔をした後、

「そっか」

と、呟いた。


「それだけなら、もう、帰ります。さようなら」

一礼して、部屋から出ようとしたその時、


「陽向って俺の事嫌いでしょ」

その言葉に思わず立ち止まった。

私は振り返り、先生の顔を見た。
怒っているような表情ではなく、いつもと変わらぬニコニコとした表情だった。


「嫌い…というか、苦手です」

私は正直に答えた。
すると、先生は、素直だなぁと、さらに笑った。


「怒らないんですか?」
「なんで?」

意外な答えに言葉がつまる。

「そんなんじゃ怒らないよ」


ちょっと話そうか、と先生は手招きをした。
私は仕方なく、先生の方へと近づく。


「座って」

そう言って先生は椅子を渡してきた。

私が椅子に座ると、先生は色々と話してきた。


先生の中学時代、高校時代、先生になったきっかけ。私は適当にあいずちを打ちながら、先生の話をひたすら聞いていた。


「次は、陽向の番。なんか話して」
「え…」

突然話を振られ、口ごもった。


「じゃあ、お題ね。最近楽しかったこと」

と、先生が出してくるお題にそって、私は渋々、いくつか、自分の事を話した。


「じゃあ最後、家でのこと」

「…。」

私は答えられなかった。
答えない私を見て、先生は優しく言った。

「なんかあったの?先生でよければ聞くけど…」


誰かにずっと聞いてほしかった苦しみや、悲しみがこぼれ出しそうになるのをぐっと堪え、いつものように笑顔をつくる。

「なんでもありません。そろそろ帰りますね」

そう言って席を立つと、先生は心配そうな表情で、


「何かあったら話聞くから、いつでもおいで」


と言って、私を見送った。



帰り道、私は、全て話せたらどれだけ楽なんだろうという気持ちと、どうせわかってもらえないし、我慢するしかないんだろうという気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃだった。