「…けど。。派遣先に派遣切りにあったのは、自分の過失だっ!」

そぅ…、急に視線を上げた男は、再び…そぅ言い切った…

「はい…。」
《あぁ、もぅ…

この人、イケメンなのに…。。なんで、こんな威圧感あるの?

さっきは、いい人かも?…って、思っちゃったけど…毒舌? なのか…

なんか、テレビで見る…弁護士とまるで違う…。

彼と、同じ姓…、ちょっと…彼とも似てるような気もする…のに。。》


と、その男のことを盗み見ている実咲…


「…で。お前…、まだ俺のこと、思い出せない…?」

と、再び…メガネを描けながら言った…

「えっ?」

「松永 実咲…。啓明学園高校…のだろ?」

その、学校名…は、実咲が通っていた高校の名だった…。確かに、軽く経歴などを伝えていたような気もするが…、彼が何故、そのことを言うのか? 実咲には、理解出来なかった…

「私、漆原さんと何処かで会ったこと…」

「俺も、啓明だったから。たぶん、同級でしょ?」

その言葉と、同時に…。。実咲の脳裏には、高校生時代のある少年が思い出された…

背が高く…、目立つタイプでリーダーシップの取れる…人だった…

「…う…、漆原くん?」
《…え…? え~?》

実咲は、咄嗟に両手で自分の頬を押さえる…。。頬が次第に紅潮していく…

「名刺、渡した時点で…気づいてるかと思った…」

と、言った…その男…。。

実咲は、慌てて…先程、手渡された名刺の名前を見つめる…

【漆原 琢磨】と、書かれている…。。実咲は、パッと顔を上げ…、その男に笑いかけながら…

「…て、あの漆原くん?
啓明学園高校の…、イケメン3人組の! バスケ部の部長だった?」

「【イケメン3人組】? なんだ、そりゃ?
俺だけだろ? イケメンなのは?」

「……っ」

思わず、言葉を失った実咲…。。

その目の前の男・漆原 琢磨は、微かに笑みを浮かべている…

その、笑顔…で、実咲は自分はいつの間にか…高校生時代に戻ったかのような感覚に陥った…

「……」
《私、あの頃…、漆原くんのこと、ちょっと…好きだったんだよな…

バスケ上手くて、頭も良くて…

いつも、クラスの中心だった…

漆原くんと仲良かった…成宮くんや佐伯くんも人気あったけど…

私は、彼が好きだったな…


でも…、彼女っぽい人いたから…、

見てるだけ…だったけど。。

あの頃…、彼と会話したのって…頑張って挨拶したのとか…、部活の試合前に『頑張ってね』って、言ったことくらい…

アレでも、私にとっては…精一杯だった…


あと。。

たった1度だけ…、気持ちを伝えるつもりで…手紙、書いたんだった…》

当時の記憶が甦り…、涙が浮かんできそうだった…

「漆原くん、あの…私のこと…」
《…覚えてる…?》

と、聞こうとした時…

「松永とは、クラス、違ったんだよな? 確か…、雅人と一緒だっけ?」

その言葉に、実咲は言葉を失う…

「…え?」
《…一緒…になったよ? 2年の時…だけだけど。1度だけ…

覚えてないんだ。。私のこと…、当たり前…か…

私、あの頃と違うし…》


実咲は、琢磨の左手に視線を落とし…。。左手の薬指にはめられている指輪を目にし…。。【結婚しちゃったんだ】と、哀しみが胸の中に募った…

が。。

パッと、琢磨に笑顔を見せ…

「でも、凄いっ! 漆原くん、弁護士になってたなんて…尊敬する。
ね、成宮くんや佐伯くんとは? 今でも、仲いいの?
バスケは? 今でも、やってるの?
それに…、結婚…したんだね? おめでと…、奥さんって、美人? 可愛い人?」

と、次々…に、質問を投げかける実咲に…、琢磨の表情は少しずつ…無に近くなりつつあった…

が、当の実咲は、気づく余裕すらない…

実咲は、琢磨が結婚してしまっていた…という事実から。。次第に…、意識していなくても…、少しずつ…表情や声のトーンも下がっていくのを感じた…

「うん。俺、昔っから頭良かったじゃん? 自分の実力を試したくて~! 弁護士になったんだけど…
バスケ…は、ワケあって…、辞めたんだ…」

そぅ、一瞬…寂し気な表情を見せた琢磨…に、実咲は気づかなかった…

「あ、そうなんだ。仕事してたら…出来ないよね?」