――げっ!? おいしいトコ、最後の最後にあんた全部持って行くなあ……。


「ねえ、永遠の愛ってどんなの? 甘いの、苦いの、すっぱいの? でも、さっきは本当にゴメンなさい……」


「――いいよもう、全部忘れたよ」


今は少女のようにはにかむ彼女の前で、僕はもう苦く笑うしかなくなる。


「こんなに濡れちゃって、風邪ひいちゃうよ、もう」


そう言いながら寄り添ってくれた彼女が、僕の背中を優しく撫でた。


「ねえってばあ、永遠の愛。あたしにはくれないの?」


今度はそう言って僕の背中に爪を立てる。


「君が外の雨に打たれて、その頭をちゃんと冷やしてくれれば僕だって真面目に考えるさ――」


冗談のつもりが、そう言った途端、


――えっ?


彼女は履いていたヒールを脱ぎ捨てると、地上に向かう階段を一目散に駆け上がって行ってしまった。


「だから、彼女は本気だって、さっき俺が言っただろう……」


マスターは又、独り言のようにそう呟き、カウンターに一人取り残された僕は彼女が戻ってくるまでの間に、できるだけかっこいいプロポーズの言葉をと懸命に考え続ける。


「もうあなたのこと、酔って殴ったりとか、後ろからいきなりカカト落とししてみたりとか、あたしはもう絶対にしないから……」


びしょ濡れになって帰ってきた彼女が息を弾ませてそう言う。


「本当?」


「うん。マスターに誓うわ」


――結婚なんて、最後はその場の勢いさ。


マスターのそんな囁きに、僕は小さく頷いていた。


「じゃあ、これからは僕を、もっと大切にしてください……」


おもわず彼女の腕の中に飛び込んでしまう僕は……。

なぜだろう、熱い涙がこみ上げてきた。


 
 (読み切り短編『スコールな彼女』)完。