「海面上昇が止まらないべ? このままいくとオラの計算では、あ、やっぱ、みなまで言うと野暮でねえだか? オラ妬まれたりするとヤダなあ」


一度考え込んでしまった金蔵をエコノミストが必死に拝み倒す。


「――んだば、まあ、たんてきに言うと、ありゃあ箱舟だっぺ。倒立式の連結器で何艘でも連結できる巨大な農地でもあり、オラが気に入った人だけ住まわせる共同住宅だっぺ」


「え? はあ、ま、まさかの展開ですが金蔵さん、アレが役目を果たすのは、それは一体いつ頃の話でしょうか?」


「そりゃあ言えねえ。だども、オラがシベリアに行くって言い出したときだって、村の衆は誰も相手にもしてくれなかったべ、なあ」


なあ! ――と、どアップになった金蔵がその眼力でカメラに訴えかける。


「こりゃあオラの予想だどもよお、そのうち日本なんか富士山の周りに佐渡島くれえの土地しか残らねえかもしれねえ、なあ」


なあ!


フルハイビジョン映像の迫力に圧倒されたJA職員に大きな動揺が走り、オレは家で荷造りをするからもう帰る! と、そんなことを言い出す者まで現れた。

まあまあ落ち着け皆の衆! なだめながらパニックを阻止しようと立ちはだかる耕介にそいつが言う。


「お前は無理だから諦めろ。金蔵の箱舟には絶対乗せてもらえねえ。だって金蔵はバカだアホだと、幼馴染のお前が最初に言い出したんだから、なあ」


なあ!


耕介の額から、じわり冷たい汗が流れ落ちた。


 (第一章『難民候補者』)完。