「んまあ、京都議定書がとうとう破棄されたとニュースで見たときよお、オラ閃いたんだ。こりゃあスゲエ勢いで地球の平均気温は上昇に転じるってよお」


「ほおほお」


「んでよお、座敷に世界地図おっ広げて一晩考えてみたんだあ。んだば、手付かずで安く手に入る土地はココしかねえべ! と、そう思ったわけさ」


「なるほど。それで金蔵さんの予想通り地球温暖化が続いた結果、とうとうシベリアは温帯気候となった。今ではサトウキビも大豆もトウモロコシもじゃんじゃん生産可能だべ! と、こういう訳ですね」


「……ちっ。おめえがみなまで言うなよ、オラ面白くねえべ」


CNNテレビは金蔵の舌打ちしたその音までサラウンドにして世界に伝える。

耕介は唾を呑み込んだ。他の職員のざわめきもようやく静まりJA事務所には緊迫した空気が漂い出すが、金蔵へのインタビューはまだまだ続く。


「あ、私としたことが調子に乗ってスミマセン……。で、それで、金蔵印のバイオエタノール燃料の品質についてですが、その辺は如何でしょう?」


その質問に、金蔵はにやりとして目を輝かせる。


「おう、そりゃあ最高のブツだべ。原油が枯渇した今更、代替燃料としての有効性は勿論だがよお、自動車に入れてもレスポンスは最高! って、あめぇーりかの偉いおっちゃんも大喜びしてたべ」


「ほっほお。それで、今建設中のあちらの建物ですが――」


エコノミストがそう言いながら指差す方にカメラは向けられた。そこには巨大な建造物の骨格が映し出されている。


「あれは一体なんなんでしょう?」


「お、あれか、あれはおめえ有限会社金蔵商店の、今後の世界戦略モデルだべ」


「ほおほお。それは大変興味深いですねえ、で?」


「まあ、言うならば、オラの先見の眼が導き出した転ばぬ先の杖。ってえとこだっぺ」


「おお! それは是非教えて頂きたいですねえ」


「やんだ」


「え?」


「やんだってばオラ教えねえ――」


金蔵はダダをこね始めたが、番組の最後に「花嫁募集中! 金髪のダイナマイト娘熱望!」と、世界に向けてアピールすることを条件にようやく都合の悪い真実を語り始める。