オラ、シベリアに農場をおっ建てるべ! 

金蔵がそう言い出したとき、幼馴染も近所の人々もJA職員も、誰もが鼻からバカにして相手にもしなかった。


「ガキの頃から、ちいとおかしな奴やと思ってたけんどよお、とうとう気がちごうたべなあ」


あからさまにそんなことを言われ陰で冷笑されたりもした。

しかし金蔵は先祖代々受け継いだ山も田畑もその他の財産もすべて売り払い、本当にあっけなくシベリアへ旅立ってしまった。


びゅーん! って……。


発つ彼を見送る者は、誰一人としていなかった。

ところが、それから十年後の今日のことである。

JA職員の耕介が昼休みに眺めていたテレビで、もう忘れかけていた幼馴染の顔を見つけて驚いた。


「ぬ、ぬぬ? こりゃあ金蔵でねえだか!」


その声は事務所中に響き渡り、職員の誰もが耕介の周りに集まってきた。


「――では、次に私から幾つか質問させてください。金蔵さんはなぜシベリアで農場をやろうとお考えになったんですか?」

エコノミストらしき男が仰々しくインタビューを始めた。

画面に映し出された金蔵の背景には、地平線まで続くかと思われるほどの広大なサトウキビ畑が広がっている。


 ざわわ、ざわわ、ざぁわわ~! って……。


「んだな、そりゃあオメエよお、まんず野暮な質問だべ――」


「ふむふむ」


金蔵は如何にも良く肥えた顎に蓄えた髭を撫でながら、思いっきりもったいぶって、それからようやく口を開いた。