「どうしたの? 元気ないね」


 車で十五分。私たちはファミリーレストランに来ていた。

 夏休み期間中の店内は子供連れのお客で一杯で、私たちが席に着いたのは、到着してから三十分以上経った頃だった。


「うーん、そうかな?」


 自分の今の気持ちがよく分からず、どんな顔をしていたらいいのかも分からなくなっていた。


「俊太に言われた事を気にしているの?」

「……そうなのかもしれない。何だか、寂しいような気持ち……?」


 多分そうなのだと思う。


「子供の頃からの遊び相手だったからさ。本当に昔から、お互いの家を行き来してたんだよね。学校が離れてからだって、親が作りすぎたおかずとか、俊太と私が届けてたりしてたし。急に来るなとか言われて、思いっきり拒絶されたような気持ちになったのかも」


 私は佳くんに苦笑いを向けた。


「どのくらい寂しい?」

「え?」


 自分のコップをじっと見つめていた佳くんの視線が、すっと私に向けられる。


「どのくらい寂しいの?」


 とても真摯な眼差しに心臓が跳ねる。


「え? どのくらいって言われると、うーん、どのくらいだろう……。私だって、ずっと、一生一緒に居られるとは思ってなかったし、いつかは離れる時が来るんだろうなとは、ぼんやりとは思ってたし……。ただ、急すぎて驚いたって感じなのかな? 今なの? っていうか……?」

「螢ちゃんは、俊太が近くに居ないと嫌? 俊太の近くに居たい? 離れてしまったら耐えられない?」


 佳くんの声は優しいけれど、いつもより少し大きいような気がした。
 その表情は真剣だ。
 そんな彼の表情に、私の胸は苦しくなる。


「ううん、そういう気持ちにはなってないよ。そうだなぁ……。何年も大切にしていた物が、ある日突然なくなっちゃったような感じと似てるのかな? 大きな喪失感?」


 そう返すと、佳くんの眼差しから、ほんの少しだけ力が抜けたような気がした。


「なるほど。そういう気持ちに近いんだね。よく分かった気がする」


 彼はコップの水を一口飲んだ。
 どうしてそんな事を真剣に訊くのだろう。
 私はその疑問を口にしてみる。


「どうして……そんなこと訊くの?」


 その質問には、先程までとは違う、いつもの佳くんが答えた。


「知りたい?」