「ほら、あーん」

「あ、あー……ん」


 カッと顔が熱くなる。


 何? これ――。


「美味しいでしょ? それ。毎年発売されるから、いつも楽しみにしてるんだよね」


 隣で飴の包みを破る音がする。

 佳くんは今の行動を全く気にしていないようだ。

 私の鼓動は苦しいほどに高鳴っている。

 どうしてこんなに動揺しているのだろう。

 今のは彼の親切心からの行動だ。

 ハンドルから手を離すと危ないから、わざわざ飴を口まで運んでくれたのだ。

 それだけだ。


「ねえ、俊太と螢ちゃんは、いつから一緒にいるの?」


 ぐるぐると考えを巡らせていた時、佳くんが私に尋ねた。


「俊太? 俊太とは、幼稚園に入る前から、気が付いたらいつも公園で遊んでたんだよね。母親同士が仲良くなったみたいで」

「そうなんだ。そんなに前から……」

「うん。学校は中学までしか一緒じゃなかったけどね。でもプレハブ小屋でたまに会うし、母親が今でも仲良く繋がってるから、俊太とは少なからず顔を合わせることがあるんだよ。だから疎遠になる理由がなかったというか」


 少し先に見える信号が、黄色になり赤へ変わった。

 ゆっくりとブレーキを踏んで停まる。


「ねぇ、二人はさ、……付き合ったりとかしたことあるの?」

「え!? ないない! 全然そんなこと考えたこともないよ」


 笑いながら佳くんをちらりと見た。

 すると、佳くんの瞳がこちらに向けられていたので、再び心が落ち着かなくなってしまう。


「本当に?」


 こちらの心を覗き込むような、真っ直ぐで綺麗な眼差しが私を見つめている。

 私は動揺を隠すように、視線を出来るだけ自然に信号機へと戻した。


「うん。本当。……何で?」

「さあ、何ででしょう」


 そう言って、佳くんは少しおどけたように、両手を軽く上げただけだった。