「ふたり…」
「誰にも邪魔されたくない。それが俺の本音」


彼の手首を掴んでいたはずなのに、いつのまにか指を絡めるようにして両方の手が握られる形へと変わる。

けれどそんなことを考える余裕もないくらい、彼のまっすぐな瞳から逃れられないでいた。


また、引き込まれてしまいそう。
何も考えられないくらい。


「だから俺でいっぱいになって」

言われなくても神田くんでいっぱいなのに。
彼はさらに私を夢中にさせる。

ゆっくりと彼が近づいてきて、キスされるのだとわかった。


もちろん嫌なんて思わないため、受け入れるよう目を閉じる。


久しぶりのこの感じ。
ドキドキと胸が高鳴る。

そして彼の息がかかったその時───


突然すぐそばにある教室のドアが開いた。
そのため、未遂で終わってしまうキス。


「拓哉さんまだいます、か……」


現実に引き戻され、さらには女の人の声が聞こえてきたため、熱が一気に冷める。

ドクンと心臓が大きな音を立て、とっさに俯いてしまった。


だって声の主は間違いない。


「……華さん、どうしたんですか?」


昨日。
神田くんとふたりでいた宮橋先生だ。

わざわざ教室まで来て、いったい何があったんだろう。
それほど重要なことなのだろうか。


「……っ、先程拓哉さんが後にしてすぐ、涼雅くんから連絡があったので…報告をしに参りました」

「そうだったんですね、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」


ふたりの会話が耳に届き、どこか他人行儀な気がして余計に不安が募っていく。


もし私がいなかったら、もっとふたりの距離が近いんじゃないかと悪いほうへに考えてしまうのだ。