「こんなことしても、無意味だってわかっているくせに」


彼が小さく笑う。

そんなこと言われなくてもわかっているけれど、やられっぱなしだと嫌だ。


ドキドキして、胸が本当に苦しくなるから。


「ほら、諦めて顔上げて?」
「や、やだ…」

「無理矢理キスしてほしい?」
「それもやだ」


どちらを選択しても恥ずかしいのだから、首を横に振ることしかできない。


「拒否ばっかりだね」
「強引なんだもん」

絶対顔を上げてやるもんかって、心に決めていたけれど。


「……それはごめんね。今の俺、余裕ないから」
「え……」


神田くんの言葉に驚いて顔を上げる。
今彼は、余裕がないと言った?


「だって今日の朝、みんな白野さん囲んでいたし。
俺だけの白野さんなのにね」


少し拗ねたような口調に、思わずキュンとしてしまう。
かわいい表情。

ギャップがあって心臓に悪い。


「でも今日はたまたまだよ?」

「たまたまじゃない。今日がきっかけになって、みんな白野さんに近づくんだよ」

神田くんは嬉しくなさそうで。
もしかして本当は彼もみんなと仲良くなりたいのかな。


「じゃあ神田くんも今日をきっかけにしてみんなと仲良くなろう?」

彼がいれば、恐れずにみんなと仲良くできるかもしれないと淡い期待を抱く。


けれど───


「絶対に嫌だよ」

“絶対”という言葉をつけられるほど、真っ向から拒否されてしまう。

どうやら仲良くなりたいわけではなさそうだ。


「どうして?」
「白野さんとふたりがいい」


どこか甘えるような声に、また胸がキュンと疼く。

私の感情が操られているんじゃないかと思うほど、彼の言動にすら左右される。