「だから誤解でっ、私は神田くんだけの私だよ…」


もうこんなにも頭の中は神田くんでいっぱいの私に、余裕なんてものはない。


「……うん」
「神田くん?」
「普通にやばいよね」


何がやばいのだろうと思っていると、神田くんに抱きしめられた。

いつもの優しい手つきで、彼が私を包み込む。



「あ、えっと…」
「白野さん、ごめんね」

突然神田くんに謝られ、なぜか泣きそうになる私。


「…誤解だもん」

首を横に振りながら、誤解しているのだと体でも表現する。


「でも妬けるなぁ」

けれど彼はまだどこか不満気だった。

思わず顔を上げると、神田くんは穏やかな表情のまま、私の前髪を横へと流す動作をする。


「切らないの?」
「へ…」
「前髪、伸びてるね。かわいい顔が隠れてる」


落ち着きのある話し方が、妙に色っぽい雰囲気へと変える。

ゆっくりと、でも確実に。
鼓動が速まっていくのがわかる。


「そんなこと…」
「いつも誤解されるのにお兄さんと出かけてるの?」


話が元に戻される。
今の神田くんは、少し不安定な状態。


「だって、誤解されてもお兄ちゃんに変わりないから…」
「仲良いんだね」


多分、仲は良い方だと思う。

喧嘩は滅多にしない…というか、お兄ちゃんがまったくと言っていいほど怒らない。


「うん…多分、良いと思う」
「認めちゃうんだ」

「え、だって…」

「たとえお兄さんだったとしても、妬けるよね。俺とはデートしてくれないのに、お兄さんとは出かけるんだ」


悲しいと付け加え、私の頬に手を添える彼。