「もっと…」
「……え?」
「もっと、見たい」
神田くんを知っていくたび。
もっと欲深くなって、知りたいと思ってしまう。
誰も知らない神田くんを、独り占めしたいと。
独り占めできたら、優越感に浸って。
「もっと神田くんのことが知りたいよ」
感情の表現ができないと。
感情がないのだと、涼雅くんは言っていた。
けれど、確かにさっきの神田くんは───
感情を作ってなんかなかった。
「俺のことが、知りたい?」
「うん、知りたい。神田くんに感情がないなんて嘘だよ。
だってさっきの笑いは作ってなかったでしょう?」
決めつけは良くないと。
神田くん自身がわかっていない事実を指摘すれば。
彼は目を見開いて数秒間固まった。
それから驚いた表情のまま、顔をあげて。
「……本当だ、俺。
今、無意識に笑ってた」
あまりにも自然だったため。
本人もその事実に気づいてなかったらしい。
「それが“感情”なんだよ、神田くん。
それって作るものじゃないの」
なぜか私が嬉しくなって、笑いかける。
「……っ、怖くないの?」
けれど神田くんは嬉しそうじゃなかった。
少し不安そうな表情にも見える。