「そろそろ座ろうか」
先ほどからずっとドア付近に立ったままの状態だったため、彼が私の手を引いて中へと移動した。
そして一度来た時と同じように机を挟み、向かい合って座るけれど。
先ほどのことが恥ずかしくて、中々神田くんのことを見れないでいた。
本当に恥ずかしい。
神田くんと一緒にいられないと考えただけで、胸が苦しくて悲しくなって、泣きそうになってしまう。
そんな弱くて、嫌だと言うわがままな私を彼に見られてしまったのだ。
「白野さんがおとなしい」
恥ずかしい思いをしていると、私を見たら絶対にわかるはずなのに。
わざと聞いてくる彼。
それが私に追い打ちをかけ、さらに恥ずかしさを増したため、完全に首を下げて俯いてしまう。
「こっち向いて?顔が見えないよ」
「の、ノートを…」
鞄から適当にノートを取り出し、神田くんに手渡す。
もちろん彼のほうは一切向かずに。
「……白野さん」
「は、早く受け取ってください」
「受け取っても何も、これ数学の教科書だよ?」
「へっ…」
顔を上げ、自分の手に持つものを確認すると。
「……っ」
確かに数学の教科書だった。
ああ、本当に自分はバカだ。
焦っているのがバレバレで。
顔が尋常じゃないくらい熱くなり、この場から逃げ出したくなる。