「そろそろ戻りましょうか。拓也さんの言う通り、お母さんに心配をかけちゃいます」

 私の言葉に、彼は親指をきゅっと握った。
 いつもと同じ『うん』を意味する動作。

 私も同じく「うん」と置くと、彼の促しで立ち上がる。
 ふらつきそうになるのを彼が支えてくれるのも、もうお馴染みになってしまっていた。

 不安定な足元にふらつくのも、何も今に始まった事ではない。
 私は元々、目が見えていたのだ。
 彼と同じであろう景色を見、彼と同じであろう私自身の顔を、毎日鏡で見ていた。
 きっかけは――飲酒運転をしていたトラックの運転手による暴走事故に、不幸にも巻き込まれたからだった。