本音――普段はあまり話してくれない、彼の思っている本当のことなのだ。

 それが、どうにも私の境遇と似ているから、少し心が痛くなった。
 目が見えないから電話も取れない。
 目が見えないからハンコも押せない。

 ちょっと種類は違うけれど、抱える悩みは似たような感覚なのだ。

「それは――拓也さんも苦労しておられるんですね」

『そんな。志穂さんに比べれば、僕の悩みなんて小さなものだよ』

「悩みに大きい小さいはありませんよ? 同じ悩みでも、それぞれが思う大きさに姿を変えるんです」

 それは以前、私が母から言われたこと。
 こんな悩みがあるんだ、と今のような話を相談したところ、母から返ってきた言葉だ。

 すると、私の手を支える拓也さんの手に加わっている力が、僅かに緩むのを感じだ。

『ありがとう』

 不意に、彼がそんな文字を書いた。
 優しくゆっくりと、ちょっとだけこそばゆいくらいの強さで。

「どうしてですか?」

『ちょっとだけ、救われた』

「――何に、かは聞きませんね。どういたしまして」

 私がそう言うと、彼はそれ以上何も書かなかった。

 どちらかと言えば、救われたのは私の方――

 なんて。
 今は、あまり言える空気ではなかった。