それで何を伝えようとしているわけでもなかったけれど、何となく――そう。ただ、何となくだ。
 言葉には『気にするな』といった言葉でしか返してくれないから、その所為なのかもしれない。

『あまり長く出てると、またお母さんに心配させちゃうから、そろそろ戻ろうか。外の空気はもう良い?』

「はい、満足です。言ってしまえば、ちょっと気分転換が出来るなら、家のお庭でも構わないんです。ただ、家にずっといるのが窮屈なだけで」

『お母さんに申し訳ない、とか考えてる?』

「それもあります。でも、一番は――私自身が、私自身に納得出来ないと言いますか…年齢だって二十歳を超えてますし、しっかりしないとって」

『何となくは分かる。僕も、父には迷惑をかけてばかりだから』

「お父さん?」

『うん。作家業だから家にいることが多いんだけど、電話とか宅配とか、何にも出ることが出来ないからね』

 その一文を書く指先は、いつもより少しばかり力が弱かった。