僕は紙に『いえ、そんな』と書いてはみたが、実際はまぁ言葉の通りだった。
 直感してしまったとは言え、僕はずっと、母の顔も見たことがないとさえ思っていたくらいなのだ。
 謝られても、申し訳ない顔をされても、どう返したものかと悩むのが本音だ。

『娘さん、姉は?』

 僕は率直に尋ねてみた。
 どう返ってくるのか、どうも返してはくれないのか、正直どっちつかずな予想ではあったけれど、母は目を伏せ「あの子は」と切り返す。

「目が見えないのよ、ある時の事故から。今日はその健診よ。時間がかかるって聞かされたものだから、私だけ一旦帰って色々としていたところ」

『すいません、タイミング悪く』

「いいのよ、気にしないで」

 そう置くと、今度は母からの質問。
 どうしてここに来たのか、と。

「あの人から言われなかったかしら、ここには近付くなって」

『言われました』

「じゃあ、どうして?」

『全然知らないとは言え、家族が気になるのは可笑しなことですか?』

 僕は返した。
 嘘ではない。ただ、本音が一割二割なだけだ。