「ごめんね、私目が悪くて。ソファにでも座ってて。お茶を淹れるわ」

 ペンに紙もない僕には、構いなく、と口にすることも出来ない。

 少ししてそれが運ばれてくると、僕の眼前テーブルへと置き、自身も対面に腰を降ろした。
 さて――と置いて尋ねられたのは、僕が山本の拓也さんね、と。
 こくこくと頷くと、母はやっぱりと溜息を吐いた。

「あの人にそっくり。ちょっと弱腰な目つきに、歩き方まで」

 どう反応したものか。
 迷って視線を巡らせていると、母はふと、

「喋れないの?」

 と。
 またも頷くことしか出来ず、動作で以って答えると、ならばとシャーペンにメモ帳を渡された。

「改めてって言うとあれだけど――木村佳乃。まぁあなたの母親よ。転勤、とはメールで聞いたわ。別居中で私も働いてるとは言え、扶養されている身だもの」

『山本拓也。今年で十八になります』

「そう……随分と経つのね」

 母はそう呟いて一拍。
 疑問符を浮かべる僕に、深々と頭を下げた。

「あの人があなたを引き取る、とは言ったけれど、小さい頃からずっと、ごめんなさい。辛い思いをさせてしまったわね」

 と。