「どうしたの、お母さん?」

 腕にしがみつく姉が、どこか焦点の合っていない目で母を見上げて尋ねた。
 すると、はっとして「何でもないわ」と僕から目を逸らし、そのまま家を後にした。
 去り際、少しだけ姉と視線が合った気がしたが――きょろきょろと焦点の合っていない視線を見るに、やはり気のせいだったらしい。