暑い。
 寒い。
 
 どちらか分からない感覚が、私を襲っている。

 纏わりついて離れない重い空気に、遠ざかっては近付いて来る足音。
 ふわりと漂う刺激的な香りの次は、香水のようないい香り。
 そして、ちくりと痛む腕。

 視覚以外の感覚で以って認識するそれらの環境は、どうやら病室であるらしいことが分かる。

 ピ、ピ、ピ、と規則正しい音は心拍を測る機械。
 足音は医師にナース。
 刺激的な香りは薬品で、腕にあるのは注射の痛みだ。

「私……」
 
 呟いた刹那。

「目が覚めましたよ、お母さん」

「志穂…!」

 若い女性の声に次いで届く、母の叫ぶような声。
 ――久しぶりに聞く声。

「どこか痛むところはない?」

「痛み止め? が効いてるのか、どこも痛くはないけど……私、なんで病院に?」

 そう問いかけると、丁度近付いて来た足音。
 私の傍らでピタリと止まって響くのは、低く落ち着いた男性の声だ。

 曰く。
 居眠り運転で突っ込んで来た大型のトラック。
 その事故に巻き込まれて脳震盪を起こしたというのが、事の内容らしいのだけれど。