現に、アリスに触れる手も女性のものではない。しっかりとした男性の手。

アリスは恋愛に興味がない。そのため、男性に触れられるのは初めてだ。びくりと体が震える。

「te amo…」

ほどよく低い声が、そう呟いた刹那、アリスは唇に違和感を感じる。

まさか…まさかだけど……。

アリスは誘拐犯にキスをされているのだ。さらに、誘拐犯はアリスのスカートの中に手をゆっくり入れ始める。

このままでは犯される…!

初めてのキスを奪った誘拐犯に、これ以上何も奪われたくない。

シャーロック・ホームズのようにアリスは武術に優れているわけではない。おまけに今は縛られて、抵抗しにくい状態だ。

しかし、体中を拘束されているわけではない。

「放しなさい!!」

アリスは目を見開き、相手に頭突きを食らわせる。相手は突然の不意打ちに驚いたようだ。

その顔を見て、アリスは「えっ?あなたは…」と固まる。

誘拐犯はアリスを放し、「レディーが頭突きをしてはいけませんよ」と笑いながら王子が姫君にするようなお辞儀をする。

「初めまして、名探偵アリス嬢。私の名前はユオ。職業は……怪盗です」