『自分にしか出来ないこと——つまりは文字通りの”個性”だな。それを、発揮するのが一番だ?』
『無個性って笑われて来た私の過去をご存知で言ってます…?』
『決してそんな意図は……不快にさせたのなら謝ろう。だが、事実俺は、それでミレイという友人を得た。それ以前、それ以降も、俺には友人と呼べる奴なんていなかったものだから、結果喜ばしいものだよ』
『個性……個性、ですか。オーファンさんの言う”個性”って…?』
思わず尋ねたそれに、
『錬成、とでも言おうか。水を操る魔法、あとそれを固める魔法を併用して、わざと取り去っていた壇上への階段に。それと簡単な結晶型の飾りつけなんかも少々』
『戦鬼、なんてただの肩書ですよね、やっぱり。とっても素敵……氷の王様みたい』
『恥ずかしいからよしてくれ……あー、同じ言葉でも、ミレイに揶揄われたことが蘇った』
『わ、す、すいません…!』
などと言っていた。
個性。
個性。
自分にしか出来ないようなこと。
心の中で何度か復唱して深呼吸を重ねると同時、エマの名を呼ぶアナウンスが入った。
「ひゃ、ひゃいっ…!」
「あれま、ガッチガチだ」
「ファイトですよ、エマさん。肩の力を抜いて」
「わ、分かってはいるのですが……人の字、人の字、人の……」
緊張感を少しでも和らげることには余念が無かった。
とは言え、皆の視線集まる一声に、いつまでも同じ場所でくすぶっている訳にもいかず、結局、というかなくなく、エマはひと際視線を集める壇上へと進んで行く。
何か可愛いね。
後で声かけてみようか。
何するんだろう。
そんな声が背中に止むことなく掛けられる。
他人事だと思って。そう口を尖らせながら、エマは登壇する。
『え、えっと……エマと申します。都合、私にファミリーネームは有りませんから、皆さん気軽に名前で呼んでくださるとありがたいです、なんて…』
まずは軽く名乗り。
すると、次々と『気にするなー』『ファイト―』『エマちゃん頑張ってー』と声が上がる。
それだけで、十分だった。
(個性、個性——今の私に、私だけに出来ることは…)
そう難しく考えることはない。
結局は、それがオーファンの一番伝えたいことだったらしい。
要は、自身が一番得意なことをすれば良いだけのことだ。
それが誰かと似通っていたとしても、それは紛れもなく個性だ。
そも”学ぶは真似ぶ”と言うように、オリジナルの影には必ず先駆者が居る筈なのである。
誇れる。
胸を張って、これは私の魔法何だと口に出来る。
オーファンの助言を胸に、一旦大きな深呼吸。
息を整えると、エマは覚悟を決めたように目を開いた
『え、えっと、私の魔法は——』
エマにとって、それは難しいことではない。
折に触れて独りで、誰に教えられるでもなく実践していたことだ。
至極簡単で、しかし誰の腕からも見たことのない魔法。
誰の目からも、それはきっと特別——”個性”と呼んで差し支えない筈なのだ。
それを心の中で再確認して、エマは檀下の席上にあった、誰も手を付けていないコップを幾つか浮かせて手元に引き寄せた。
それを軽くのやってのけたエマの腕に、教員を含めた一同が期待の眼差しを向ける。
『私の——』
コップから水分だけを浮かせると、更にマナを送り、形を変えていく。
アリシアの言う錬成とは程遠い——しかし”つくる”という意味では重なる魔法。
”物”を作り出す錬成がアリシアの魔法だとするならば、エマのそれは”者”を作り出す魔法。
忙しい親の居ない休日、自分を除くと一人も子どもの居なかった村で、自ずから使えるようになった、唯一友達と遊ぶ為の手段。
「魔法は——」
ぐにゃりと曲がるそれに意識を集中すると、次第に九つの尾を携えた狐へと形が変わっていった。
おぉ、と一瞬間だけ声が上がる。
『キュウ——』
ふと聞こえたそんな泣き声に——次いで動き出したその水の塊に、
「あれって…」
「あぁ。失われた旧世界の魔法…」
生徒の声、そして教師の声が混ざる。
「すごい…」
「なんて美しいのでしょう…」
マイ、そしてソフィアの声も重なるそれは、
「私の魔法は——黒魔術です」
虚無から自我を与える、旧世界で既に滅びた筈の魔法。
『無個性って笑われて来た私の過去をご存知で言ってます…?』
『決してそんな意図は……不快にさせたのなら謝ろう。だが、事実俺は、それでミレイという友人を得た。それ以前、それ以降も、俺には友人と呼べる奴なんていなかったものだから、結果喜ばしいものだよ』
『個性……個性、ですか。オーファンさんの言う”個性”って…?』
思わず尋ねたそれに、
『錬成、とでも言おうか。水を操る魔法、あとそれを固める魔法を併用して、わざと取り去っていた壇上への階段に。それと簡単な結晶型の飾りつけなんかも少々』
『戦鬼、なんてただの肩書ですよね、やっぱり。とっても素敵……氷の王様みたい』
『恥ずかしいからよしてくれ……あー、同じ言葉でも、ミレイに揶揄われたことが蘇った』
『わ、す、すいません…!』
などと言っていた。
個性。
個性。
自分にしか出来ないようなこと。
心の中で何度か復唱して深呼吸を重ねると同時、エマの名を呼ぶアナウンスが入った。
「ひゃ、ひゃいっ…!」
「あれま、ガッチガチだ」
「ファイトですよ、エマさん。肩の力を抜いて」
「わ、分かってはいるのですが……人の字、人の字、人の……」
緊張感を少しでも和らげることには余念が無かった。
とは言え、皆の視線集まる一声に、いつまでも同じ場所でくすぶっている訳にもいかず、結局、というかなくなく、エマはひと際視線を集める壇上へと進んで行く。
何か可愛いね。
後で声かけてみようか。
何するんだろう。
そんな声が背中に止むことなく掛けられる。
他人事だと思って。そう口を尖らせながら、エマは登壇する。
『え、えっと……エマと申します。都合、私にファミリーネームは有りませんから、皆さん気軽に名前で呼んでくださるとありがたいです、なんて…』
まずは軽く名乗り。
すると、次々と『気にするなー』『ファイト―』『エマちゃん頑張ってー』と声が上がる。
それだけで、十分だった。
(個性、個性——今の私に、私だけに出来ることは…)
そう難しく考えることはない。
結局は、それがオーファンの一番伝えたいことだったらしい。
要は、自身が一番得意なことをすれば良いだけのことだ。
それが誰かと似通っていたとしても、それは紛れもなく個性だ。
そも”学ぶは真似ぶ”と言うように、オリジナルの影には必ず先駆者が居る筈なのである。
誇れる。
胸を張って、これは私の魔法何だと口に出来る。
オーファンの助言を胸に、一旦大きな深呼吸。
息を整えると、エマは覚悟を決めたように目を開いた
『え、えっと、私の魔法は——』
エマにとって、それは難しいことではない。
折に触れて独りで、誰に教えられるでもなく実践していたことだ。
至極簡単で、しかし誰の腕からも見たことのない魔法。
誰の目からも、それはきっと特別——”個性”と呼んで差し支えない筈なのだ。
それを心の中で再確認して、エマは檀下の席上にあった、誰も手を付けていないコップを幾つか浮かせて手元に引き寄せた。
それを軽くのやってのけたエマの腕に、教員を含めた一同が期待の眼差しを向ける。
『私の——』
コップから水分だけを浮かせると、更にマナを送り、形を変えていく。
アリシアの言う錬成とは程遠い——しかし”つくる”という意味では重なる魔法。
”物”を作り出す錬成がアリシアの魔法だとするならば、エマのそれは”者”を作り出す魔法。
忙しい親の居ない休日、自分を除くと一人も子どもの居なかった村で、自ずから使えるようになった、唯一友達と遊ぶ為の手段。
「魔法は——」
ぐにゃりと曲がるそれに意識を集中すると、次第に九つの尾を携えた狐へと形が変わっていった。
おぉ、と一瞬間だけ声が上がる。
『キュウ——』
ふと聞こえたそんな泣き声に——次いで動き出したその水の塊に、
「あれって…」
「あぁ。失われた旧世界の魔法…」
生徒の声、そして教師の声が混ざる。
「すごい…」
「なんて美しいのでしょう…」
マイ、そしてソフィアの声も重なるそれは、
「私の魔法は——黒魔術です」
虚無から自我を与える、旧世界で既に滅びた筈の魔法。