メインストリート外れの一画は、人込みの喧噪薄めな静かなカフェ。
 カフェ・ド・キッカと落ち着いたデザインの看板がある。

 案内人は勿論オーファン。
 実は行きつけなのだと語るそこは、オーファンの唯一とも呼べる友人が店長をしているのだ。

「いらっしゃいませーって、何だオーファン——と、拉致られた女の子?」

 開口一番失礼なのは、彼女のユーモアである。

「失礼な、ちゃんと友人だよ。まったく……エマ。こいつはカフェ・ド・ボッタクリ店長の——」

「いっちょ前に失礼ぶっこくようになったのはこの口かー!」

 紹介や虚しく。
 店長による鮮やかなまでのヘッドロックがオーファンに見舞われる。
 情けなくも「ぐえっ」と声を上げるが、まぁこれだけしっかりと決まっていては仕方もない。

 加えてぐりぐりと頬をつつくこと数秒。
 唖然、呆然としていたエマの存在をようやくと思い出したように、そのままで改まった自己紹介を再開した。

「あ、カフェ・ド・”キッカ”店長、ミレイ。こいつとはただの腐れ縁よ。よろしくね」

 そこだけ強調するのは、オーファンの絡みあっての反抗だろう。
 もう十二分にそれは果たしている筈なのだが。
 
 苦しそうにタップするオーファンの情けない顔を一瞥しながらも、

「よろしくお願いいたします」

 とりあえずはミレイに挨拶。
 
(今のはオーファンさんが悪いと思うなぁ…)

 とは言いつつも、口にしないのはせめてもの気遣いだった。

「さぁオーファン? ちょっと裏でお話でもいかがかしら? ん?」

「お、俺、エマとお茶を——」

「まぁまぁ、そう長い時間はかからないって。ほんの小一時間程よ。いつだったか、ありがたーい正座の贈り物を五時間もあげた時程じゃないわよ」

「——!? エマ…! エマ、助けてくれ!」

 唯一にして絶対と称される人間の上げる必死のSOSは、とりあえずと通された席で茶を啜るエマの耳には届かなかった。