「ひ、ひと、?」

雪がしんしんと降る中、夜の10時半に終わるバイト帰りに、野良猫が寒い思いをしていないか不安になって公園に寄った時だった。

連日続く雪が積もりに積もった公園は、子供達も雪遊びに飽きたのか閑散としていて、阻むものがいないせいもありかさ高くなっている。

植えられている小木の付近に猫を見つけて毛布を置いてミルクも置く。そしてやっと安心できて、傘をそばに添えて帰ろうとした時だ。

公園の奥、植木に囲われる角。レンガに持たれるようにして、その人は目をつぶっていた。

言葉は悪いけれど、その人がもっと汚らしい人だったりだとか、小太りのおじさんだとかしたら、自分で声をかけるより先に警察に連絡をしたと思う。怖いから。


けれどその人はとても美しかった。


彫りが深く高い鼻に、長い睫毛。肌の色は標準だが、髪の色はプラチナブロンドで透き通るよう。

ピアスのついた耳たぶが少し赤らんでいて、この人が人間なのだとわかるほどに、容姿の整った男の人だった。
そのピアスだって、私でもわかるハイブランドのものだ。

「あ、あの、お兄さん」

おそるおそる手を伸ばして揺らしてみると、「ぅ、」と思っていた以上に低い声がこぼれた。それだけでビクついて手を離してしまった。

よかった、ちゃんと生きてる。意識もある。もう一度体に触れた。体にそんなに雪が積もっていないのをみるに、倒れたのはついさっきとかだろうか。

「お兄さん、死んじゃいますよ。起きてください
「……っ、う、だ、誰?」
「わぁっ」

ゆっくりと開かれた瞳はとても綺麗だった。グレーのカラーコンタクト越しに視線が絡んで、上だけでなく下まつげさえも長いことにも驚いた。

「えと、私は瑞穂(みずほ)といいます。その、通りすがりの女子大生で」
「……瑞穂ちゃん、……俺は、誰だろ」