それでも、拓との仕事はやめなかった。
それから少しして、慎吾が入院した。
腰の具合が悪いらしい。
慎吾は昔、1度腰を折ったらしく、時々痛むとよく言っていた。
あたしは、学校の帰りにお見舞いに行くことにした。

普段とは違う沿線のバスに乗って、慎吾がいる病院に向かった。
病院の2階に着くと、慎吾が部屋から出てきていた。
あたしは慎吾に走り寄った。
「大丈夫!?」
慎吾は、腰にコルセットを巻いている。
「んまなんとかね」
慎吾の病室の隣に、慎吾のお母さんも、ヘルニアで入院してるらしい。
ちょうど、慎吾のおばあちゃんとおじいちゃんが慎吾のお母さんのお見舞いに来ていた。
あたしは、ぺこっと頭を下げてから慎吾の病室に入った。
時間帯が夜ご飯だったらしく、慎吾の食器があった。
「今日俺の嫌いなもんばっかなの」
慎吾が困ったように笑いながら、食器の蓋を閉めた。
「健康的そう」
あたしはなぜか緊張していて、うまく喋れなかった。
「一応病院だから。てかなんかかわいくなった?」
あたしは、照れて反応に困った。
「つけましてるからかな」
「いいじゃん♪」
客に言われる"かわいい"とは全然違った。

「つかゲームやろー」
そう言って、慎吾はゲーム機を2つ取り出した。
「なんでそんなに持ってるの?」
「友達に借りた」
慎吾はベッドに寝転んで、電源を入れた。
そして、あたしにゲーム機を渡した。
画面にはデータがいくつかあった。
「どれ押せばいいの?」
「あ!ちょっと待って!」
慎吾が、いきなりゲーム機の画面を覆った。
「なに!?」
「えっと…名前…」
その言葉で、あたしは悟った。
データには"あゆむ"の文字。
浮気相手の名前だ。
「今更?てか言わなきゃ別にわかんなかったのにー。あたし男だと思ってたもん」
わざと明るく振る舞った。
本当は、深く心をえぐられた気分だった。