あたしは、そーっとその人に近付いていった。
その人の横に立って、部屋を見渡した。
香水と煙草の匂いがする。
水槽がいくつかあって、魚が泳いでいた。
そして、ようやく男が顔を上げた。

「幼いなあ」
拓は、笑いながらあたしを見た。
「あ。うん…」
写メより全然かっこいい。
あたしは、体が硬直して自分じゃないみたいだった。
「座れば?」
鏡を見ながら、拓が促した。
「あ…はい…」
少し離れて鞄を置いて、静かにカーペットの上に座った。
落ち着かなくて、ただきょろきょろするだけだった。

少しして、拓がストレートアイロンを置いた。
「よしっ…んじゃ説明するか」
そう言って、拓は物入れからノートとペンを持ってきた。
「まず、こういう法律があって…」
拓は、あたしが知っておくべき法律を紙に書いて説明してくれた。
あとは、拓と仕事をしていく上での注意。

「こんな感じかな。OK?」
「大丈夫」
拓は、あたしが知らなかったことをいろいろ教えてくれた。
前のやり方じゃだめなことも知った。
あとわかったこと。
拓は嘘が大嫌い。

「よしっじゃあ風呂入ってこい!」
説明し終わった拓が、立ち上がって言った。
「へ?」
あたしがきょとんとしていると、拓にタオルを手渡された。
そして、お風呂場に案内された。
「体だけ洗ってきちゃいな」
そう言って、拓はお風呂場のドアを閉めた。
拓の家のお風呂は、トイレと一緒になっていた。
あたしは、脱いだ服をトイレの蓋の上に置いて、浴槽の中でシャワーを浴びた。
なんだか頭がからっぽで、お湯だけを流し続けた。
「まだー?」
拓が叫んだ。
その声で、あたしは我に返った。
「もうちょいー」
ボディーソープで体を洗い、浴槽の中で体を拭き、服で体を隠しながらお風呂場を出た。