次の日。
学校を終えたあたしは、拓の家の最寄り駅に向かっていた。時間がないので、白の靴下を紺に変えただけで、すっぴんのままだった。

[着いたよ]
あたしは電車から降りて、拓にメールした。
すると、すぐに電話がかかってきた。
「改札出て右な」
あたしは、拓に言われた通りに進んだ。
「んで坂下って…下り終わった?」
「いや。まだ…もうちょい」
ずいぶん急な坂道で、思わず走ってしまいそうだった。
「そしたら信号渡って。早く!急げ!」
「え。急ぐの?」
「早く早く。走って!」
拓が笑いながら言った。
「えー…待って」
あたしは重い鞄を肩に下げたまま、少し小走りした。
「曲がって…2つめのアパートだから」
「どっち?」
手前には、白とオレンジのきれいなアパート。
奥には、少し汚れている白いアパート。
「ちょっと待って…あーもうちょい先に、今ドア開いてるとこあんべ?そこだから」
あたしがきょろきょろしていると、奥のアパートの1回の端の部屋のドアが少し開いているのが見えた。
「あ!わかった!」
「鍵開けとくから、入ってきて」
そう言うと、拓は電話を切った。


梅雨に入りかけの時期で、その日はちょうど雨だった。
湿気が少しべたつく気候だったのを、今でも覚えている。


さっきの部屋の前に立って、ビニール傘を閉じた。
ドアの横には洗濯機が置いてある。
深呼吸をして、恐る恐るドアを開けた。

部屋の中は暗くて、玄関は物がごちゃごちゃしている。
部屋の端のテーブルの上に鏡を広げて、ストレートアイロンで髪の毛を整えている男の人が見えた。
下はスウェットで、上半身は裸だった。
怖い。
直感でそう感じた。