キスをされた。
あたしもそれに応える。
出っ歯な男の歯が当たる。
そのまま押し倒されて、進んで、男はあたしの上で果てた。
時間が遅くて門限に間に合うか微妙だったから、2人共急いで服を着て、車に乗った。

「こういう関係じゃなくて、また会ってくれる?」
不意に男が口にした。
「いいですよ」
あたしは笑顔で答えた。
会う気はなかった。
笑顔で嘘がつけた。
「ありがとう!あ。飲む?」
そう言って、目の前にあったコーヒーゼリーの飲み物をくれた。
最近CMで流れているやつだった。
「これ初めて飲む」
「けっこうおいしいよ」
コーヒーが苦手なあたしは、一口だけ飲んだ。
本当に意外においしかった。
「てか電池なくなっちゃったあ」
すると男は、持ち運び用の充電器を取り出した。
「これ使いな。てかあげるよ」
「え!もらうのは悪いよ」
さすがに、もらうには気が引ける。
「いーって。そんな高いもんじゃないし」
「じゃあ…ありがと」

その後、説明の食い違いで道を間違えられたけど、無事に家の近くまで送ってくれた。
「じゃっ」
急いでドアを閉めて、家に向かって走った。
道を間違えたせいで、門限は少し過ぎていた。
家にはお母さんだけがいた。
――よかった。父親いない。

「ただいまあ」
あたしは、普段通りに振る舞った。
「遅かったね」
「うんー」
適当に流しながら、自分の部屋に入った。
お母さんは怒っていないようだった。
「もうすぐお父さん帰ってくるよ」
「わかったあ」
あたしは、部屋のドアを閉めた。
ノートに挟んでいたお金を取り出した。