「初めまして。まじかわいいね!モテるでしょ?」
「いやいや全く」
「彼氏いないの?」
彼氏…
あたしの頭の中に、蓋をしていたはずの慎吾が浮かんだ。
でも、それはすぐにかき消した。
「いないですよ」
「ほんとに?じゃあ付き合おうよ」
「えー…」
「あ!今日の分はちゃんと払うし、これからも困ってる時多少なら助けてあげるよ」
断りたいけど、とりあえず機嫌損ねるような下手なことは言えない。
「考えときますっ」
あたしは、冗談っぽく笑いながら答えた。
「残念だな」
相手も笑ってる。
――よかった…
「まだ家着かないの?」
「もうちょっとだよ」
かなり時間が経っている。
少し不安になりながらも、会話を続けた。

「着いたよ」
着いたところは、けっこう古風な小さい一軒家だった。
「ここ普段誰もいないんだよ。前は母親住んでたけど」
「へー…」
サザエさんちみたいな扉を開けて、段差の高い玄関を上がった。
「おじゃましまーす」
入ってすぐ右の部屋に案内された。
ごちゃごちゃしてるけど、逆に生活感があって少し落ち着く。
急に緊張してきた。
車乗った時から緊張はあったけど、ここに来て急に高まった。
「前金?」
「あ…はい」
手を組んでる男の言いつけだった。
お金は前金で、相手に見えないようにすぐしまう。
しまい終えて、辺りを見回した。
キッチンに繋がる扉に、歌手のグループのポスターが貼ってある。
そのグループが好きなあたしは、それを凝視してしまった。
「好きなの?」
「超好きー。かっこいいもん」
「なんか、母親が好きらしいんだよね」
「そうなんだあ」
あたしは、男の方を向いた。