バレンタインの日。
慎吾はバイトがあるから、バイトの前に駅に寄ってもらった。
紙袋に入った、フォンダンショコラ。
「ありがとな」
「うん。バイト時間大丈夫?」
「んっとね…もう行くかも」
――もう行くんだ…
「そっかぁ。学ラン似合うね」
慎吾の制服姿を見たのは初めてだった。
「そぉ?ありがと♪んじゃあそろそろ…」
そう言って、慎吾は自転車の向きを変えた。
「んじゃっ」
笑顔で手を振って、自転車をこぎ始めた。
あたしは、見えなくなる所まで見送って、駅に戻った。

学校が違うから、なかなか会えないのはしょうがない。
分かっていても、一緒に登下校するカップルを見ると、やっぱり寂しかった。


別の日に、私服で初めてカラオケに行くことになった。
あたしは、彼氏とカラオケに行くのは初めてで、少し緊張していた。
行った所は、アイスが食べ放題だった。
「パフェ作ったげる。俺、これ超得意だから☆」
そう自慢気に話しながら、慎吾はソフトクリームの機械を上手に操った。
「やばくね!?俺天才かも」
「ほんとだぁ。形超きれい」
「バイトでよくやるからね…はいっ」
カラフルなトッピングを乗せたソフトクリームを、あたしに差し出した。
「ありがと」
慎吾があたしのために作ってくれたのが嬉しくて、思わず笑顔になる。

部屋に入って、少し離れた所に座った。
「先歌っていいよ」
慎吾が、笑顔で機械を渡してきた。
「え。やだよ。じゃあじゃんけんしよ?」
緊張してるのに、いきなりあたしからなんて歌えない。
でも…
勝ったのは慎吾だった。
「えっ。無理無理」
あたしは、困った顔で慎吾を見た。
「しょうがねぇなー」
そう言ってはにかみながら、慎吾は機械に曲を入力した。