部屋を出ると、来たときにはいなかった慎吾の両親が台所にいた。
玄関に行くには、台所の横を通る。
あたしは悩んだ末、玄関を出るときに挨拶しようと思った。
台所を素通りして、靴を履こうとすると、慎吾が必死に口パクで何か伝えようとしていた。
慎吾の口から、小声で"挨拶"という単語が聞こえた。
あたしは、慌てて
「あ。おじゃましましたっ」
と言った。

玄関を出ると、慎吾が苦笑いしていた。
「まじ焦ったぁ」
「や。玄関出るときに、言うつもりだったんだけどね…?」
なんだか、急に自分が恥ずかしくなった。
よくよく考えれば、台所を通る時にも、玄関を出るときにも挨拶すべきだった。
――失敗したぁ…挨拶もできないガキって思われたかも。
あたしは、3個上の慎吾に、子供だって思われるのを極端に嫌った。
見た目も童顔な上に、精神年齢も幼かったら、きっと嫌われるって思ったから。
頑張って大人に近付こうとしてた。
慎吾と会う日は服装も大人っぽくしたくて、なるべく黒系の服を選んでた。

次に会った日。
あたし達は一つになった。
嫌だったけど、ゴムはつけなかった。

[え。いつもつけんの?]

メールで慎吾が言った言葉。
[だって、妊娠やだもん]
[中に出さなきゃ大丈夫だよ]
[んー…]
悩んだ末、結局つけなかった。
何よりも、慎吾に嫌われたくなかった。