あたしは、慎吾の背中にたまに手を置いた。
広くて大きな背中。

慎吾の家は、駅から10分ぐらいの場所だった。
海の近くの白い団地。
近くにはプールとスケートリンクがあって、来たことがあった。

「ここだよ」
そう言って、慎吾が自転車を止めた。
あたしは、降りて自分のかばんを取った。
最上階まで階段を登った。
「あ。うちの親、挨拶とか厳しいから」
慎吾の家は一家で空手をやってるらしく、挨拶が厳しいのも不思議ではなかった。
「おじゃましまーす…」
慎吾の部屋は、玄関から突き当たりだった。
部屋に入ってふすまを閉めた。
多少は片付いてるけど、ちょっとごちゃごちゃしてる。
慎吾はパソコンのスイッチを入れ、音楽を流そうとしていた。
あたしは、とりあえずかばんを床に置いた。
慎吾が床に座る。
「おいで?」
あたしが慎吾の方に行くと、慎吾があたしの腰に手を回して、後ろ向きに慎吾の腕に包まれた。
慎吾からは、香水の匂いがした。
「いい匂いする」
「ん?あぁ。ベッカムがつけてるやつだよ」
「へー…いいね♪甘いけど男っぽい感じ」

その匂いは、いつの間にかあたしの脳裏に焼き付けられることになる。

急に無言になってしまった。
部屋には、さっき慎吾がつけた音楽が流れている。
慎吾の顔を見上げた。
慎吾がそれに気付いて、目が合った。
慎吾の顔が近付く。
慎吾との初めてのキス。
慎吾の唇は、ぷにぷにしてて柔らかかった。
唇が離れると、なんだか急に恥ずかしくなった。
「えへへ…」
あたしは、顔を見られないように慎吾に背を向けた。
「なんだよー」
慎吾があたしの髪を撫でた。
「髪伸ばさないの?」
「長いときは長いけど…長い方が好き?」
「俺、こんぐらいがいい」
慎吾があたしをくるっとひっくり返し、あたしの胸の下ぐらいに手を当てた。
「めっちゃ伸ばさなきゃだね」
あたしは笑いながら言った。

「そろそろ時間じゃない?」
「そうだね」
慎吾は、夕方から空手らしかった。