数日後。

 私のピアノをみてくれている先生に呼び出されて、私は会議室へと足を運んでいた。
 まず聞かれたのは、昨日のことについて。
 養護教諭の先生はここにいないからと、私は「ただの貧血です」と答えた。

 すると、先生は何も疑うことなく「そうですか」と返し、本題だ、と話を切り替えた。
 やっぱり、私自身を心配なんてしていないんだ。

「本題なんですけど――この学校に、海外留学の制度があるのはご存知ですね?」

 私は頷いた。

「来年、二回生の夏季休暇中に実施されます。舞踏会に出た者を筆頭に数名、少数での留学です」

 そこまで聞けば、内容は理解出来た。
 つまり、私がその筆頭というわけだ。

「海外では、学ぶことも多いはずです。貴女が更なるステップアップをする為の、いい刺激となるでしょう」

 刺激、か。
 そんなことを言われても。

 筆頭、などという肩書の元で赴けば、自然いつかは人前で弾かされることになるんだ。
 前みたいに、勝手な弾き方をとか、自由過ぎるとか、そんな“不満”を向けられるだけの、ただのお遊び。

 都合のいい、体のいい見世物にされるくらいなら――

「……少し、考えさせください」

 それでも、私は気の弱い人間だ。
 強く出ることも、はっきりと断ることも出来ず、騙し騙し、薄く浅く、決断の余地を貰った。

 今回の話は、あくまでただの誘いらしく、期間という期間は、実際には来年の夏季休暇前だった。