冬が来た。

 舞踏会にも出て、海外留学の話も来ている私が不登校児とあって、周りは、知らない人までも奇異の目を向けて来る。

 私の所為じゃないのに。

 いや、そうなった私の所為か。

 でも、皆がそういう目で私を見るから。

 やっぱり、私がそう思っているから。

 ぐちゃぐちゃ。
 頭の中は、もう何が起こっているのか。

「お疲れ。ねえ、帰りどっか寄ってかない?」

 変わらず声をかけてくるのは友人だ。
 数日空けてを繰り返す私に、いつもこうして話しかけてくれる。
 そう。赤と黄色の混ざった“緊張”を孕んで。

 あなたは優しい人だ。それは分かってる。
 きっと、裏心なく私に話しかけてくれてるのだろう。

 でも、声を掛けんとする度に緊張するのなら、その度に周りの目が刺さって傷つくなら、もういっそ何も話してくれない方がまだ良い。

 私ではなく、あなたが。

「――ごめん、今日は病院に」

 嘘だ。

「そっか……ごめんね、気をつけてね」

 気付いてもいるのだろう。
 聞き返さないのだって、きっとあなたの優しさだ。
 控えめに手を振って別れると、また周囲の目が鋭く刺さった。

 私には軽蔑の目。

 あなたには、哀れみの目。

 苦しくないと言えば嘘になるけれど、友人に向けられるよりかは幾分良かった。
 学校を出てすぐのバス停に辿り着くと同時に、バスが丁度入ってきた。



 一拍遅れて、古臭く軋むような音を鳴らしながらドアが開くと、重い足取りで車内へと乗り込む。

 前の席は不安定に揺れて怖いから、いつも通り後方の、二人掛けの席は窓際へ。
 ほとんど人が居ないことを確認して、私は隣の席に荷物を降ろした。
 多くなって来れば、持ち上げればいい。

 バスが動き出して少しすると、大きな溜息が漏れた。
 心の底から、身体の内側から溢れて零れた、大きな“不満”だ。
 結局、私も唯の人間。一般人なのだ。
 皆が思うようなことを、同じように思ってしまっている。

 それでも周りのことが気になって溜息が漏れるのは、やっぱり私の性格がちょっと曲がっているからだ。

(ごめん…)

 そう心の中で友人に伝えてみたけれど、もう手遅れだった。
 そしてまた、溜息が零れる。

 するとふと、前の席から一風変わった空気を感じて、顔を上げた。
 学校指定と思しき、エンブレムの入ったカバンを脇に置いた、コートとマフラーに身を包んだ男の子。

 両耳にイヤホンを着けて、何やら音楽を聴いているらしいのだが――

(気持ち悪い――気持ち悪いくらいの、赤黒さだ)

 血が昇る赤と、前が見えなくなるという意味の黒を合わせた、“興奮”の色だ。

(何でこんなに……)

 第一印象。

 変わったやつ。