「おー、杏が怒った」 それなのに本人は気にするどころか、睨む私を見て笑っている。 「なんのつもりよ」 「その顔だ」 「は?」 「変に取り繕おうとすんな、バカ」 コツンと頭を小突かれて、あっと思った。 ……あーあ、すごいな、拓海は。なんでもお見通しだね。 「素の、いつものお前で行けよ」 まっすぐに私を見るその目は、昨日と同じ。 朝からドキドキと不自然なくらいに張り詰めていた糸が、ゆるっとほどけた気がした。