まだ暗闇で、観客席に自分たちの姿は見えていないだろう。だが、ステージ上からは、うっすら観客の姿を確認することが出来た。


 ――あいつら、来てるのかな。


 2人に渡した席の辺りを視界で捉えてみたものの、薄暗い闇の中でははっきりと、認知することは出来なかった。


 ――やらなきゃ。今はとりあえず、ステージを終わらせなきゃ。



 始まりのリズムを刻む、明弘のドラムがなる。そしてそれに呼応するように、頭上のスポットライトが一斉に光を放つ。


 沸きあがった歓声が聞こえて、俺は思わずスタンドマイクを握り締めていた。

 心地よいはずの緊張感が、何故か、ひどく圧迫したものに、このときの俺には感じられたのだ。