若奈が知らない彼の一面だった。

「きゅ、急にどうしたの……?」

若奈の戸惑いは計り知れない。
さっきまで彼の腕に絡めようとしていた手も、まるで何事も無かったかのように下ろしてしまっていた。

「あんたに触れて欲しくない意外、理由なんか無いだろ」

要の声音は相変わらず冷え切っている。
若奈の涙腺は今にも決壊して涙が溢れてしまいそうだった。

「“私といるの楽しい”って言ってくれたのに……」

「楽しいさ。アイツのキレた顔想像して、ちょっと誘えば馬鹿みたいについて来る女の相手は可笑しくてたまんない」

要はふいっと風見を顎でしめし、軽く嘲笑(ちょうしょう)してみせた。
若奈の涙腺はついに限界突破する。
ポロポロと零れ落ちる涙を必死で拭う。