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要の家に行ったあの日から、朋世は彼の事が気になって仕方無い。

髪を()かす指の感触。
ふきかかる生温かい吐息。
柔らかい唇。

そして何より、あんな瞳をした彼を朋世は知らない。深い深い穴の底のような瞳だった。
吸い込まれてしまいそうで思わず逃げ出してしまった。


そして学期末が来ると、朋世のクラスである噂が流れ始めた。
若奈と風見先輩が破局したという噂。
HR前の休憩時間、前席のあいが嬉しそうにこちらを向いた。

「あの噂聞いた?」
「うん……」
「進学校のエリート君に持っていかれたらしいよ。早いよねぇ……」

その“進学校のエリート君”というのは要の事だと朋世は確信する。
あれからずっと若奈との関係を続けていたらしい。
そう思うと朋世は嬉しいともなんとも思わなかった。