「立ち話もなんだから中へどうぞ」

要に(うなが)され、朋世は「お邪魔します」と靴を揃えて彼の自宅へ上がらせてもらう。
広いリビングルームに通されて、朋世の脳裏に懐かしさがこみ上げてくる。

幼稚園の帰りにこの部屋で要とともによく遊んだ。
彼のお母さんが作る手作りのお菓子はいつも可愛くて美味しくて、朋世は大好きだった。

「おじさんとおばさんは元気?」

朋世はソファーにちょこんと腰掛けて尋ねる。
少し間を置いて、要が「さぁな……」と答えた。

「“さぁな……”って自分の家族の事じゃない」

「家族だったら何でも知ってなきゃいけないのか?」

「そうじゃないけどさ……」

何気ない世間話にそっけない態度を取られて、朋世は不満そうに口を尖らせる。