俺と琴音が付き合い始めたのは、数ヶ月前のことだ。


俺が数学の勉強をしていると、



「すみません、ちょっとわたしの勉強を教えてもらってもいいですか?」



と、可愛らしい声が聞こえ、甘い匂いもした。
1人の女子が立っていた。少し背が低いけれど、手足が長い。
彼女は、俺が何も言わないので教えられないと解釈したのか、



「あっ、無理ならいいんです。ごめんなさい」



と言って、どこかへ行こうとした。
その途端、俺の口がやっと動いた。



「いや、大丈夫。どこ?」



彼女は、どうも数学が苦手らしい。俺は、彼女が分からない計算問題の解き方を教えてやると、すごく真剣に聞いてくれた。



「ありがとうございます! あの、わたし、大桃 琴音っていいます」



「あ、俺、植松 晴人」



自己紹介で助詞も使えないのか、と言いたげな感じだったことを今でも俺は覚えている。
けれども彼女、琴音は気にも留めなかった。