「あ、あけましておめでとうございます」

「はい、あけましておめでとう」



新年の挨拶を交わして、横に並ぶ。
黒のコートを羽織った鳴海さんは、今年高校受験の娘さんがいるとは思えないくらい若々しく見える。

身に付けている革靴や時計やかばんはしっかりと手入れされていて、いつ見ても上品な印象だ。
きっと毎日、奥さんが準備してくれているのだろう。



「電車、空いてましたよね」

「そうだね、どうせ今日行ったら明日は土日でまた休むんだから、うちも休みにすればよかったのにね」



やわらかく話す鳴海さんが瞬ちゃんと重なって見えた。



「今日は、挨拶回りだけ?」

「そうですね、」


営業の担当をしている会社を2社挙げる。
その内の1社には元旦那が今も在籍している。

彼は元々、取引先の人間だった。
向こうの先輩社員に、取引の話し合いに同席されられて出会った。

同い年ということ、学部は違ったけど通っていた大学が同じだったことがきっかけで話すようになり、何度かお互いの会社で会っているうちに連絡先を交換して付き合うようになった。


結婚してからは私との取引の担当を外れて出世をしたらしいけど、離婚するまでどんどん会話が無くなったから、今ではどんな役職についたのかすら知らない。

一度付き合って結婚もしたのに、別れたら他人になってしまった。



「まぁ、来週から本気出して頑張るってことで、今日は楽に仕事して定時で帰ろうね」

「あ、いいですね、それ」


鳴海さんののんびりした口調で現実に戻る。